アウグストの十字架

 11.五十二日目の悪巧み





ある一室のパソコン画面が点灯する。
気付いた男がマウスを操作すると、画面は一通のメールが送られてきたことを知らせていた。

メールの画面を立ち上げて、送信されてきた内容を開く。


『謹啓、貴社ますますご清祥の段、心よりお慶び申し上げます。
平素は格別のお引き立てを賜り厚くお礼申し上げます。
さて、弊社では日本での事業拡大に伴い新社屋を建設中でありましたが、落成の運びと相成りました。
これもひとえに皆様のお引き立ての賜物と社員一同感謝しております。
日本支部では、弊社社長補佐を務めておりました鈴村優菜が責任者となることに相成りました。
これまで本社より対応しておりましたアフターサービスを統括し、迅速な連絡と対応ができるよう努めて参ります。
新設されたばかりの支店ですが、何卒、温かいご支援ご指導を賜りますようお願い申し上げます。

つきましては、新社屋のご披露とこれまでの感謝の意を申し上げたく、ささやかではありますが小社にて小宴を催させていただきたく存じます。
甚だ失礼ではありますが、書中をもって新社屋落成のご挨拶かたがた祝宴のご案内を申し上げます。
敬白』

記されていた内容の下には日時と開催場所が文面で記されていた。
日本での、という書き方から海外の資産家の事業拡大であることを男は推察した。
すぐにデスクに向かう男へと呼びかける。

「社長、新社屋設立パーティのお知らせが来てます。」
「なに? こんな時期にか? どこからだ。」
「ウヅキコーポレーションの鈴村様からなのですが…」
名前を聞いた社長はすぐに男から印刷された用紙を受け取り、文面に目を通す。
すぐに興味を無くしたのか、滑らせるように紙を放ると着席してパソコンを触り始めた。
無言の彼に男は困惑していたが、窺うように視線を向ける。
パソコンから目を離さずに社長は言葉を発した。


「その日は私も重役との接待が入っている。息子に行かせるから、その件については何もしなくてもいい。」
「そうですか、ご子息に…」
「書面を見たところ、ウヅキコーポレーションも娘さんが就任するらしいからな。お披露目パーティと言ったところだろう。今のうちに息子にああいった場での経験を積ませておきたいからな。」
「承知いたしました。ではそのように。衣装などの手配をしておきましょうか?」
「ああ、そうだな。それは頼もう。」
「はい。」





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