triste

 優しきものを労わる兎




そんな時だった。

「うわぁ!?…え?あ!」
森さんがごろりと転がってきたのだ。慌てて彼を受け止めると、驚いた顔で森さんはこちらを見た。

「森さん、大丈夫ですか?」
「こんなの!たいしたことねーよ!!」
すぐに立ち上がった森さんはいつものような笑顔で笑う。それを見て、少し安心した。
近くで拳銃の音が聞こえる。その銃声で森さんははっと我に返ったように弓を構えた。

「森さん?」
「濃姫様が今あいつと戦ってて……!」
「あいつ?」
思い当らない人物に私が首をかしげていると、濃姫さまが見える。でもその姿はさっき見た時とまったく違っていて、傷だらけだった。
どさっ。華奢な体が倒れる。
そんな倒れた彼女に刀を振り上げる人物がいた。それを見るなり私は考えるよりも先に体が動いていて。

「森さん!濃姫さまを!!」
「あ…!う、うん!」
間に入り込むのは間に合わない。そう判断した私は両手に持っていた針をそのひとに向かって投げつけた。
怯んだ隙をついて濃姫さまとそのひとの間に入り、そのまま足を払おうとするけど相手も察していたのか避ける。…でもそれでいい。
森さんに声をかければ、彼はすぐに濃姫さまを支えて刀の人から離れてくれた。


「…私の邪魔をするのか、女。」
「ええ、邪魔させていただきます!」
「半兵衛様、この者を斬滅する許可を。」
「……っ、ほどほどにね…三成君。彼女は必要な人間だ。」
明智さんとの攻防もあってか白いひとは息が切れている。
目の前の人の息が切れるまで、私で時間稼ぎが出来ればいいのだけど……。

「ふっ!」
彼が持っている刀はかなり長い。私は投げる武器が得意だから、相性は悪い。というよりも最悪。
何故なら私の投げたものは、刀や槍といったものにすぐに弾かれてしまうだろうから。
案の定、私の放った針は簡単に薙ぎ払われてしまった。


「その程度か!」
「う…!」
鈍重な剣士ならそれでも善戦出来るけど、それも期待できなさそう。彼の足は異常に速かった。
すぐさま間合いを詰められて、刀が襲いかかってくる。これは、針では絶対に勝てない。

(仕方ない……)
そう考えるや否や、私は間合いを取って彼の足元に広がっている液体に意識を集中する。
液体──血液はすぐに凝固し、彼の足を取った。

「!」
「氷……!!」
驚いた声は誰のかすら、今の私は聞き取れなかった。
余裕がない。本当に彼は手ごわい。それだけが私に分かることだった。
私は普段隠しているそれに手を通す。そしてスイッチを押した。

それは伸びて、幾本もの刃を煌めかせる。



「あれは……!」
呟いたのが誰かわからない。何を言ったのかも。
それくらい私は切羽詰まっていた。駆けだした私は、刀の人と打ち合う。

力で負けた私はそのまま吹っ飛ばされた。体勢を整えて着地した私に襲いかかる刀。
何とか後退して避け、爪を構える。間もなく相手が間合いを詰めて来た。氷を飛ばして距離を取ろうとするけれど、彼は止まらない。

また私は後退した。着地したその時。



とん、
「三成君に気を取られて、背後への注意がおろそかになる…まあ彼が相手ならば仕方のないことだけれど、ね。」
「あ、なた…は……」
首へ走った衝撃はあまりにも唐突で、私の意識は闇に引きずり込まれていく。
目の前で刀を収めた刀使いの人を見れば、これは予想外でもなんでもなく、作戦だったのだということに今更気付いた。

「半兵衛様…」
「お疲れ様、三成君。良くやってくれたね。」
もうどちらが何を言っているのか分からない。ここ最近眠っていないことも手伝って、私の瞼は簡単に落ちていく。
こんなことなら、無理にでも寝ておくのだったと後悔しても遅い。


「いえ、当然のことです。」
「君のお陰で彼女を手に入れることが出来たんだ、もっと自信を持っても良いんだよ。…さて…、目的は果たした、長居は無用だよ。」
「はい。その女は私にお任せください。」
「任せたよ。」
声が止んだ後の浮遊感。それを最後に、私は気を失った。



「主!!」
どこかで私を呼んでいる声に、気付くことなく。

 

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