もしものおはなし


「ひゃっ!?」
まだ耳慣れない声が響いた。声がした方を見れば、焦ったように青い髪が揺れる。
その原因は声の持ち主の背中にぴったりと張り付いている赤い髪が原因だ。


「…またか。」
その光景を運悪くも目撃した俺は、盛大なため息をついた。視線を感じて振り返ると同じく目撃してしまったのだろう、佐久間が諦めたように微笑みかけてくる。
そうだよな、あれを毎日のように見ればそう思うよな。俺もまったく同感だ。


「あ、あの…練習はいいのですか?」
「うん。」
「……」
即答かよ。ほらお前の返答のせいで彼女困った顔してるだろう。
とにかくそこにいる青い髪の女の子は、俺たちのマネージャーではない(たまに手伝ってはいるようだけど)。


では彼女は何者なのか?答えは俺たちイナズマジャパンの護衛を務める女の子だ。
はい?と思ったやつ前に出て来い。俺と同じだ親友になってくれ。


「俺が今日やるメニューはもう終わったから。」
世界に挑戦することになった俺たちだがそれだけ注目の的となり危険も迫る。だから護衛として派遣されたのがそこにいる赤いのに張り付かれている青い髪の子だった。
なんでも俺たちと歳も変わらなくてあんなにかわいい子なのに、マフィアの幹部だとかなんとか。世の中本当に理解出来ないことってあるもんだ。

彼女は人当たりも良く、気が利く。
見た目もかなり綺麗(美人っていうのかもしれない詳しくないから分からないけど俺は可愛い子だと思う)な部類に入るし、人柄よし、そして何より清楚で可憐な雰囲気は俺たちの間でも話題になっていた。
そんな見た目よし(可愛い)、性格よし(優しい)、さらに特殊パラメータつき(マフィアなんとかの幹部)な彼女を放っておかない奴が出てきた。奴だ。

「ひゃ…き、基山さん……っ離れて…!」
「君と一緒にいたくて、全力で終わらせちゃったんだ。」
彼女の細い腰に腕を回して小さな背中に覆いかぶさる赤いやつこと基山ヒロト。お前の狙いは円堂じゃなかったのか。この間まで名前呼びしてたくせに。
俺の心の声なんて聞こえるわけもなく、ヒロトは小柄な彼女を腕の中にすっぽり収めた。

「ふふ、照れてるの?可愛いなぁ……」
「ん…っ!?」
頬を染めて目を見開く彼女は男心をくすぐる可愛らしさだ。そんな彼女の反応に奴が萎えるわけがない(むしろ盛る。確実に)。
気持ち悪いほどの笑顔を見せた奴は彼女の耳にゆっくりと息を吹き込んだ。当然いきなりの感覚に彼女は驚いて一瞬動きを止めてしまう。細い肩がびくんと動いたのがこちらからでもはっきりと見えた。どうやら耳は苦手らしい。

ぎゅうっと目を閉じる彼女はまるで肉食獣に食われる前の小動物のようだ。そんな彼女の反応に気を良くしてか、奴は腰に回している腕を今度は前に回して彼女の体をがっちりとホールドする。
それをぼんやりと眺めながら、彼女を見る。清楚な彼女は体つきも華奢で、ちょっとでも力を入れればぼきりと折れてしまいそうな体だ。にもかかわらず、彼女の身体能力は俺たちよりも上だった。
あんな華奢な子に守ってもらっているのかと思うと、なんだか少し悲しくなる。


会わせたい人がいる。
監督から言われ、俺たちは断ることもできず(というか拒否権なんてものはそこに存在しなかった)彼女に出会った。
そこで彼女が俺たちの護衛を務めるという旨を伝えられると、当然不満の声が上がる。どうしてそんな女子に守られなくてはならないのか、と(特に染岡はかなり不満そうだった)。
そんな中放たれたのは一本の矢。……矢!?この現代日本に矢!?拳銃とかじゃなくてか!?
そう思った俺だったが、その矢はとてつもない速さで監督に向かって飛んでいく。誰もが目を見開いてその矢を見つめていた。
飛び出していったところで今度は俺たちが危ないだろうし、だからといってこのまま放置するわけにはいかない。どうするべきなのか困惑するメンバーの中、唯一まともに思考で来ていたのが彼女だった。

「…むこう、ですか。」
彼女は監督の鼻先に迫っていた矢を素手でつかみ取り、そしてその矢が飛んできた方向を見据えた。少し目を細めたかと思えば彼女はその場から一瞬で消え去り、驚く一同の声がグラウンドに響く中戻ってきた。
その華奢な腕に、複数人の男を縛った縄を持って。そしてこの時彼女は何事もなかったかのように、困ったように微笑んだのだ。
「すみません、お話の途中で…」


「……すごいな…」
これには元ハイソルジャーのヒロトも驚いた様子でぽかんとその光景を見つめていた。しかし俺はこの時ヒロトの頬が赤く染まっていたのと、目が虚ろで焦点が合っていないことに気付くべきだった。しかし回想している今、それを後悔しても今更遅い。
男たちをその場に転がした彼女はくるりと振り返って、監督に駆け寄った。その様子は本当に普通の女の子と変わらないのに、簀巻きにされている男たちのせいでどうしても彼女に対する警戒が解けない。

「監督さん、お怪我は?」
「いや、大丈夫だ。君のお陰でな。」
「…そうですか……」
監督の返事に彼女はほっと息をつき、胸をなでおろした。
安心したように微笑んだ彼女は本当に可愛い女の子で、どうしてそんな彼女があんな神速の動きが出来たのか俺は今でも疑問に思う。エイリア石でも使って…?
いや、そんな風には見えないし…。というかエイリア石はもう無いはずだし。

各々驚いたまま固まっている中、円堂は目をきらきらと輝かせて彼女の元へ歩いていく。
円堂、まさかお前はこの現象までも受け入れてしまうのか?お前の頭のキャパシティは一体どうなっているんだ?

「お前すっげぇな!やっぱり世界は広いぜ!!」
「やはりか……」
向こうで鬼道が盛大なため息をついた。豪炎寺も眉間を押さえたまま、険しい顔をして俯いている。
…あ、豪炎寺が険しい顔をしているのはいつもか。
「…風丸、ちょっと話がある。」
「……ごめん、撤回するから許してくれよ豪炎寺。」
「夕食後に宿の裏だ。」
「あー…」

「大丈夫か、風丸。」
「鬼道、俺試合出られなかったらどうしよう。」
「…安心しろ、いざとなったら緑川が飛行機で来てくれる。髪型似てるしたぶんばれない。」
「確かにポジション大体一緒だけど……っておい。お前は俺と緑川をなんだと思ってるんだ。」
「…佐久間の方がいいか、片目だし。」
「佐久間はどっちかっていうとフォワードだろ!?俺はディフェンダー寄りなんだけど!!」
…とまあ後々俺が豪炎寺からファイアトルネード治療法を受けそうになったことを除けば、結果的に穏便な話し合いで彼女を受け入れるということで決定した。
ファイアトルネードは受けたのかって?何を言ってるんだ俺には疾風ダッシュと風刃の舞がついているじゃないかはははは。

まあそれはさておきその時以降、彼女は俺たちの護衛としてイナズマジャパンについてくれているというわけだ。



「ん?どうしかした…?」
「あ、いえ…その、はなして…ほしい、です…」
「…俺のこと、嫌い……?」
「う…!」
……ヒロトがうざくてそろそろ俺死にそう。
そう言えば最初に疲れたように笑っていた佐久間はどうしているだろう。彼を見れば案の定眉間を寄せて、頭痛でもするのか目を閉じてこめかみの辺りをぐりぐりと揉んでいる。確かに目に余るよな、あれ。
そりゃそうだ、佐久間の隣にいる不動なんて我関せずを貫いている(やつはきっとヒロトの存在を頭から抹消しているのだろう、良い作りの頭してるんだし司令塔だし)。

「おい円堂…」
白い頬を真っ赤に染めて、ヒロトを何とかしようとあの子がもがく。しかしその抵抗すら盛る原因なのかヒロトは一向に彼女から離れたがらない。
困り果てた俺は円堂を見た。そして後悔した。見なきゃ良かったと思うほどの満面の笑顔で、円堂はサッカーボールを持っていた。怖い。
今まで幼なじみをしてきた経験が言っている。『完全に怒ってる!今の円堂に関わるな!!』と。

「吹雪ー、」
「うん、分かってるよキャプテン。」
そして俺の背筋をぞぞっと這い上がる悪寒。
呆れていた佐久間はおろか、鬼道や豪炎寺、談笑していた一年生たちや向こうでヒロトの存在を抹消していた不動でさえびくりと肩を強張らせて円堂を見ていた。
ちなみに監督は放置の方向らしい、そして円堂と同じ(いやそれよりもっと怖いかもしれない)笑顔の吹雪がその顔のまま持っていたサッカーボールを握りつぶした。

おい待ってくれ俺これから吹雪とザ・ハリケーンの練習するんじゃなかったか。
監督も言ってくれよ前に言ってくれたじゃないか『フィールドの中でサッカー以外のことを考えるな』って。


「恋愛は個人の自由だ。」
「えっ、」
「先は長い、焦るな風丸。」
「いや意味分かんないし話が呑み込めないんですが!?」
おいそれでいいのか監督。
しかしまずいぞ吹雪がいよいよエターナルブリザードの準備をしだした。やばいまずいぞ早くヒロトどうにかしないと吹雪がヒロトを殺ってしまう確実に。

「風丸、」
混乱してる俺をよそに、豪炎寺が冷静に呟いた。


放置プレイって知ってるか?
(つまりそれって見て見ぬふりってことだろ!)
(大丈夫だ、問題ない。)
(あるよ!ヒロトだって一応人間だし、居なくなったら困るだろ!!)
(俺は、ヒロトがいなくてもサッカー楽しいぜ。)
(それは確かにそうだけど……って違う!法律法律!!)


────

相変わらず長ったらしい文章ですみません。
とにかく基山をうざい人にしたかった。そして困る風丸さんと、風丸さんとアイコンタクトする佐久間が書きたいだけだった←

鬼いちゃんと先生はもうネタ要員になってますね、すみません。
かっこいいシスコンズ読んで出直してきます。


和泉はキャプテンタイプに弱そうだなぁと思ったり。立向居と仲良しだと可愛い。綱海にーにには振り回されつつ仲良しだともれなく私が萌える。
曇はイケメンジャパンにうひひしながら、一年ズと仲良しだといいな。でも基山は危険人物として見てるとか。
二人ともイケメンにはだまされないと思う。多分。

あとがきも長ったらしくてすみません。これにて閉幕。

 
(追記)-- 2011/06/25 17:29


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