寂しい


東月にストーカーされること早二ヶ月…何もせずとも汗が滴る時期になりました。
季節が変わるということは衣替えがある。
夏服に衣替えした時、東月は私に笑顔でこう言った。

「水かけたら透けそうだな」

そんなことを言われたのは生まれて始めてである。
いや始めてじゃなかったらものすごい怖いんだけど。
私はその日から恐怖に震えながら過ごした。
いつか本当に水をかけられそうな気がして仕方がなかった。
だが、東月はその日から私に近寄らなくなった。
私にとってはそりゃあとても嬉しいことなのだが、なんというか…調子が狂うと言いますか…。
少し、物足りない気がしてしまう…。
いや別に寂しいなんて断じて思っていない

「はあ…」

先程廊下を歩いていた陽日先生に東月にこのよくわかんないプリントを渡せと捕まった。
陽日先生曰く私は東月を引き寄せているらしい。
いや引き寄せるというか東月が一方的に私に近づいてきているだけなのだが。
まあ頼まれたのだからこのプリントを東月に渡さなければならない。

「あ…」

曲がり角を曲がったら目の前に東月がいた。
東月を見るのが久しぶりで懐かしい感じがした。
東月はというと、私の顔を見て目を見開き後ろに後ずさった。
私は東月が後ずさったのに対して足を踏み出した。

「東月、このプリ…」
「ごめん…」

そう言って東月は私の言葉を聞かずに走り去った。
私は暫く唖然として動けなかった。


「えっ…?」

さっきの出来事を月子に話し、プリントを渡すように頼むと素っ頓狂な声を上げた。
何故そんな驚いた顔をするのか。

「嘘だよね…?」
「私が嘘つく必要ある?」

そうだよね…といって顔を俯けながら月子は私からプリントを受け取った。
あの時東月に会えて嬉しかったなんて談じてない。
気の迷いだ気の迷い。

「…錫也どうしたんだろ」
「……私のこと嫌いになった、とか…」

私がそう言ったら、月子が私の顔を見て微笑んだ。

「なまえちゃん、そんな悲しそうな顔しないで」
「っ…悲しそうな顔なんてしてない」
「してるよ。錫也にはきっと何か理由があったと思う…だから私が聞いとくね?」

私にはうん、と頷くしかなかった。
というか頷こうが頷くまいが月子が東月に理由を聞くのは絶対だから変わらないんだけど。
私は顔が見られたくなくて月子にお手洗い行ってくると言って教室をでた。
私の行き先はお手洗いではなく屋上庭園だ。
このまま授業にでることなんて出来ないから…。

屋上庭園につくと、私は奥の方のベンチに横になった。
横になったら当たり前に空が目にうつる。
青空を見ていたら何故か胸が少し痛んだ。

「あれ〜なまえちゃんじゃん」

突然名前を呼ばれてバッと飛び起きる。
そこには先輩達が三人立っていた。
制服を着崩していていかにも馬鹿と言った感じだ。

「…何か用ですか?」

私がそう言いながらベンチから立ち上がると、私を囲みこんでにやりと気持ち悪く笑った。

「邪魔なんですけど」
「ちょっとぐらいいいじゃない〜?」

そう言って手を掴まれ、私は顔を歪めてしまう。
私の手を掴んでいる先輩とは違う先輩が私の背後に周り私を羽交い締めにする。

「ちょっと…!!ん゛!!」
「うるさいなあ…ちょっと黙っててくれるかな」

そう言って私の口を手で塞ぐ。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
必死に抵抗するが、相手は男。
しかも一人じゃないから逃げられない。

「女が少ないからって調子のんなよ」
「月子ちゃんの方が可愛いけどガード固いからな〜」

そんなこと言われなくたってわかってるわボケ、と内心毒づく。

「さてと…いただいちゃう?」
「そうだな〜夜久ちゃんじゃないのは残念だけど…」

そう言って一人が首元のスカーフを乱暴にとる。
他の二人も私の制服を脱がそうと体に手を這わす。

「っ…」

もうだめだ、そう私は思って目をぎゅっと瞑った。

「…おい…なにしてるんだ」

私の聞き慣れた声とワントーン下がった声が聞こえた。
目を開けて顔をバッと声をした方に向けた。
そこにいたのは、東月だった。
東月の声に吃驚した先輩は私の口から手を離しす。

「なんだよ、お前には夜久ちゃんがいるだろ!!」
「…そうですか、あくまで引く気はないんですね…?」

東月がニッと笑うと先輩たちはヒッと言って後ずさる。
だが決して私を離そうとはしない。

「ガキが調子に乗るなよ…!!!」

先輩の一人が拳を振り上げながら東月に向かっていくが、東月は笑顔でその先輩を殴って起き上がれなくした。

「…、…」

倒された先輩以外の先輩二人は顔を青くせて私を離し後ずさった。
私はその隙を付いて東月の方へと逃げ出した。

「あ…!」

先輩たちが声をあげて私に手を伸ばすがそれが私に届くことはなかった。
私がいないということは人質がいないということ。
つまり、今先輩たちは逃げることしか出来ない。

「い、いくぞ…!」

気を失っている先輩を置いてく所があの先輩たちは弱いんだと再確認させてくれる。
まあ女が勝てるようなものじゃないけどね。

「なまえ一人で行動するなって何回も…」
「……」

逃げて行った先輩を見ていたらなんとも言えない気持ちになっていたのだが、東月のオカンを発動され私はどう東月にこの状況を説明すればいいのか悩む。

「いやね、たまたまあの先輩たちがきて絡まれちゃった」
「…大丈夫か…?」

そう言って私に近寄り私の頭をな撫でる東月に安心して私の目は決壊してしまう。
それは止まることなく私の頬を伝う。

「…っ…こわか、た…」
「そうだよな…ごめんな、一人にさせて…」

ふと、私は思った。
これが起こる原因になったものは東月なんじゃないかって。
私が悩み始めた原因は東月だし、東月に会いたくなくて屋上庭園にきたわけだし。
これは全て東月のせいなんじゃないか。
ってまあ私が勝手にしょぼくれてただけなんだけど…。

「…東月はなんで私のこと避けてたの…?」

私がそういうと東月は目を丸くしてふっと笑った。
そして私の背中に手を回した。

「っ…何するの!離して、よ…!」

私がそう言うと、東月はいつもと違う行動をとった。
私の首筋に顔を埋めて何かを堪えていた。
何かをというか、これは笑っているんじゃないのだろうか。

「東月なに笑ってんのよ」
「…いや、なまえがそんなに俺のこと好きだったなんて嬉しいな」

私には東月が何を言いたいのかよくわかりません。
訳がわからなくて泣いていたのに涙が引っ込んでしまった。

「…誰もあんた好きなんて言ってないけど」
「月子から聞いたよ。なまえが悲しがってたって」

東月の顔を見たら、とても意地悪な顔をしていた。
というか顔が近い。
「いい加減離してくれるかな…っ!」
「ん―?もうちょっとなまえの可愛い顔見ていたいな」

取り敢えず殴っておいた。



教室に帰ってきたら私の所へ一目散に駆け寄って抱きついてきた月子。

「なまえちゃん!大丈夫だった?」
「うんまあ大丈夫だけどさ。取り敢えずコイツどうにかしろ」

私が言ったコイツというのは東月のことである。
授業が始まるということで大人しく教室にもどってきたのだが、東月が屋上庭園から私の手を離そうとしないのだ。

「相思相愛だからいいんじゃないか?」
「誰がお前と相思相愛じゃ!」
「なまえ」

もう一発殴っておいた。
とまあおふざけはここまでにしておこう。
このまま授業が始まるのかと思っていたら、なんと先生が休みで実習だった。
みんなで一つの席に集まって何故か先程の話になった。

「…で、錫也は僕の話を受け入れてなまえを避けたわけ」
「そういうことだ」

哉太命名「押してダメなら引いてみろ!大作戦」という名のよくわからんものを実行したということだ。
私があまりにも冷たいから錫也が冷たくなったらどうなるかということらしく、珍しく羊に丸めこまれた東月がやったらしい。

「…錫也、そんなに効いた?」
「うん。ありがとな、羊」
「あああああ効いてない!」

馬鹿かお前等!と叫ぶも時既に遅しというか、月子が周りに広めてくれたおかげで誰も私の話を聞こうとしない。
羊が今度月子に試そうかななんて言っていたような気がしたが、私はそれどころではなかった。

「やっぱなまえ可愛いなあ…」

そう言って笑う東月に私は恐怖を覚える。
これは前にもあった気がっ…と思うももう遅かった。
私の身体は東月の腕の中にすっぽりとうまっていた。

「何するんだよ!」
「ん〜」

東月が私の頬に頬擦りをするものだから気持ち悪くて鳥肌がたった。
身をよじっても男の力に女の私が勝てるはずもなく、東月の腕から抜け出せない。
東月が私を持ち上げたり、首筋に東月の息がかかったりして私は皆が笑う中心中こう思った。

「寂しいなんて気のせいだった!!」



大人しいとなんだか寂しいです
………気のせいでした!!!!



変態に恋されてしまいました。は、これにて完結になります。
管理人はあいぽんに変えたりで書きたかったものをまた忘れました←あいぽん関係ない
こちらは溺れた人魚で初めての完結作品になります。
勢いで始めたものだったので心配だったのですが完結できて良かったです…。
このお話を読んで少しでも楽しんで頂けたのならとても嬉しいです。
これからも頑張って書きますのでどうか生温かい目で見守ってあげてください。
Title by 確かにだった
20130329

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