冗談 鼻歌を歌いながら軽快に廊下を歩く。 何故鼻歌を歌っているのかというと、放課後月子と一緒にうまい堂の新発売のパフェを食べにいくからだ。 そして、またしても東月がいないからである! と、教室に行くまで私は機嫌がよかった。 教室に入って、私は地獄に突き落とされた。 いつもは私より遅くくる月子が教室にいて、東月と話していた。 月子は私に気が付かないで東月と話をしていたが、東月は私の方をチラリと見て不敵な笑みを浮かべた。 背中に悪寒が走って汗が出る。 夏に向けて日に日に温度をあげていく気温は、私の回りは冬のように冷たかった。 「うん、わかった」 そう言って満面の笑みで月子に答えている東月は私の恐怖の対象にしかならない。 話を終えた月子は漸く私に気付き、ばつの悪そうな顔をして近づいてきた。 東月が満面の笑みのまま月子のあとをついてくるものだから私は思わず後ずさった。 「なまえちゃん…」 「つ、月子…ど、したの?」 悲しそうに目を伏せて手を握ってきた月子と笑顔の東月はあまりに対照的である。 少し俯いた月子は決心したように顔をあげ、口を開いた。 「今日、いけなくなっちゃったの…!!」 「……はい…?」 今日いけなくなった…それは、うまい堂のパフェを食べにいけないということだろうか。 もっと深刻な問題かと思っていた…。 月子は目に涙を溜めて私の手を強く握りしめた。 「ごめんね、まさか週末に練習試合が入るなんて思ってなかったから…」 「気にしないで。いつでもいけるから、ね?」 「うん…でも、なまえちゃん楽しみにしてたでしょ?」 楽しみにしてたといえばそうかもしれない。 月子は普段部活があるから御出掛けなんてめったにできないし、久しぶり甘いものが食べたかったけど…そんな悲しい訳じゃない。 うまい堂は近くにあるからいつでもいけるし。 月子はだから…と言って、東月をチラリと見た。 ……それはまさか、東月と一緒に出掛けろということなのだろうか。 「つ、月子、またこっ…」 「だから、錫也といってきて!」 やっぱりそうなるんだね!? ねえ月子、君は私が東月のことがあんま好きじゃない(要するに嫌い)の知ってるよね!? 「今度一緒に行けばいいからね!?」 「私これからはインターハイの選抜決めとかあって部活休みが少なくなるから一緒に行けないの…だから、錫也といってきて!」 月子と食べにいかないのだったら私は絶対にいかない。 寧ろ行きたくない。 手を前に出して髪を振り乱して頭をブンブンと振った。 「東月とはちょっと…」 「大丈夫!錫也ならある意味大丈夫だから!」 「月子…それはちょっと傷つく」 そう言って胸元を抑え、少し俯いた東月を見てもざまあみやがれとしか思わ無いのは、私が性格悪いとかじゃなくて全て東月が悪い。 「大丈夫、もし錫也が何かしても私が殴るからね!」 「……うん…」 反抗しようと思っていたのだけれど、月子が物凄く押してくるのでやめた。 まあ、東月が変なことしたら私は回りの人に助けてもらえばいい。 学園内じゃないからきっと助けてくれる人がいるはずだ。 放課後、制服から私服に着替えて待ち合わせの場所に向かう。 待ち合わせの場所は職員寮前なのだけれど。 「お待たせしました」 「全然待ってないよ。今きたばかりだから」 そう言って東月が笑った。 ぱっとみで言えばカッコいいのだ。 10分程前から待っていたのに今きたばかりだと言うし。 それなのに中身が…うん…残念。 「私服も可愛いな」 「そりゃあどうも」 まあこう言って女を口説けるわけだ、こいつは。 私は中身の残念差をしっているから惹かれることなんてないが。 「それじゃあ、行くか」 「うん」 私が歩く速度にあわせて東月が歩いてくれるから楽だった。 ば哉太とかは絶対あわせてくれなさそうだ。 校門の前のバス停でバスに乗り、揺られること約20分て町にはついたが、うまい堂はまだまだ先だ。 軽く東月と世間話をしながらうまい堂まで歩いた。 うまい堂にはすぐついたのだが、お店が混んでいて注文してから料理がくるまでに時間がかかった。 「うわぁ…」 目の前に運ばれてきたパフェにお腹が鳴りそうになる。 それを我慢して唾を飲み込み、手を合わせた。 「いただきまーす」 スプーンで生クリームをひとすくいして口に運ぶ。 うまい堂の生クリームは他の店にはない美味しさだ。 濃厚なのにくどくなく、程好い甘さなのだ。 一人でもくもくとパフェを食べていると、東月がふふ、と笑いはじめた。 「どうかした…?」 「ほっぺた、生クリームついてる」 そう言って手を伸ばして私の頬を拭い、その手をナチュラルに舐めた。 ……こいつは一体何者だ…。 あの東月錫也はもっとこう…変態臭を漂わせた男なのに今日はイケメン臭を漂わせている…。 「ん、うまいな」 「当たり前!ここのは本っ当に美味しいんだから」 私がまたもくもくパフェを食べ進め始めると、東月がこっちをずっと見ていることに気がついた。 視線が気になって食べずらいのだが…。 「…こっち見んな」 「ん―…そんな可愛いことしてると食べちゃうぞ」 その一言で回りのというか、店の温度がニ、三度か下がった気がする。 普通に言ったぐらいじゃそんなにならないが、東月の声はマジだった。 食べちゃうぞが冗談に聞こえません。 イケメン臭を漂わせていたのは一瞬だった。 Title by 確かに恋だった 20130212 |