今日は星見会がある。
もう放課後だから、後は暗くなるのを待つだけ。
私はやり残していた課題があったから、図書室へと来てやっていた。

「…わけわかんない」

物理は苦手だ。
天文学は物理学に含まれるものだからできなきゃ困るというか、致命的だ。
まあ、物理の全てが苦手な訳じゃないから大丈夫だと思いたい。
天文学と天体学と宇宙物理学と宇宙論ならまだ大丈夫なのだけれど、計算は駄目なのだ。
というか、上記の学問にも計算が絡んできたら私は全くわからない。
物理は数学に近い部分があるから数学が出来ればいいのだが、私は数学が苦手なので全くできないのである。
だけど、私に教えてくれる人はいない。
月子には教えるけど、私には教えてくれないの。

「っ…」

また、胸がつきんと痛んだ。
我慢、我慢しなきゃいけない。
こんなことで泣いていられないから。
独り、図書室で歯を食い縛った。




あの後課題に集中出来るわけがなく、早々に切り上げた。
星見会まではまだ時間があったから、寮に課題を置いてから行こうと思って寮へと歩いていた。
前方にあまり会いたくない人達が立っていたが、寮に行くためには通らなければいけないから目をなるべく反らして前を通り過ぎようとした。

「…那奈ちゃーん」
「……」

名前を呼ばれたけど無視した。
この人達はあまり関わりたくないタイプだったから。
先週あたりに私に告白してきて、とってもしつこい人達だったから。

「おい、無視すんなよ」
「…汚い手で触んないで」
「は、俺は消毒液持ち歩いて清潔にしてます―」

誰もそんなこと聞いていません。
そして汚い手って清潔じゃないとか関係がないんですけど。
星月学園はそれなりに頭がいい人達が入る学校なんだけど、すごい頭がゆるい人達だ。

「私は寮に帰りたいんです」
「まあまあ、いいんじゃないの?少しぐらいさ」

よくないよ少しも。
あんた達の顔なんて見たくもない。
近付かないで欲しい。

「…この前はよくもフッてくれたな」
「好きな人以外となんか付き合いません」
「チッ、女二人だからって調子にのんなよ!」

調子にのるもなにも、たまたま入った学校が女子二人だっただけでこの言いようだ。
ちやほやされたいからって理由でこの学園に入った訳じゃない。

「…お前に告白したのだってな、夜久さんに近付くためなんだよ。胸元は残念だが顔はいいし性格もいい。お前なんかとは違うんだよ」
「!…、…」

月子とは違う。
そうだ、だから錫也は私を見てくれないんだ。
顔もスタイルもよくて、おまけに性格もいい。
同性の私だって、たまに見惚れてしまうぐらい。
小さい頃から一緒にいたのに、全部違うんだ。

「…っ…」
「あれ―、泣いちゃった?本当のことだから仕方ないよな―?」

本当のこと。
みんな、そう思ってるんだ。
月子の幼馴染みだから私と仲良くしてくれてるんだ。
私、は…月子のおまけでしかないんだ。

「…オイ、なにしてんだ」
「ゲッ、七海…」
「っ那奈!」

ボヤけた視界で、銀髪が動く。
私の回りにいた男子どもを押し退けて私の前に来て肩を掴み、揺らしてきた。

「どうした!?なんかされたのか!?」
「違う、大丈夫…」

月子に劣等感を感じて自己嫌悪してるだけ。
全部、私が悪いんだ。
こんなことになるならみんなと違う学校を選べばよかった。

「オイ…あんたら、覚悟はできてるんだろうな」
「ひっ…いくぞっ」

哉太がすごむと、顔を青くして去って行った。
すぐに逃げるなら来なきゃいいのに。

「なに言われたんだ」
「なんにもないよ。目にゴミが入っただけ」
「…嘘、つくなよ…。笑ってないぞ」

笑ってない?
そんなはずない。
私は哉太にわらっているはず。

「そんな顔してたらなんにもないって言われたって信じれねえよ」
「違う、…なんにもないから…」

わからない。
どうやって笑えばいいんだろ。
楽しいってなんなんだろう。
嬉しいってなに?
もうわからない。
悲しい。
ただ、悲しいだけ。

「このこと、錫也と月子には言わないで」
「なっ…また絡まれたら――」
「――いいから言わないで!!」

つい、大声を出してしまった。
この事を錫也に言えば、錫也が月子のことを好きなのが余計にわかってしまう気がしたから。
もう、つらい思いをしたくなかったから。

「ごめん…」
「いや…錫也には言わない」
「ありがと…」
「ただし、一人で出歩くなよ」

うん、と頷いてその場を立ち去った。
また八つ当たりしそうだったから。
この時点で哉太の約束は破っていた。




星見会は既に始まっているが、行く気になれずに自室にいた。
携帯にはなんの連絡もない。そうだよね、やっぱ錫也は私のことなんて気にしてないんだよね。
ああほら、空はこんな澄んでいて綺麗なのに、私の心は酷くくすんでいるのね。

「…っ…」

その時、携帯がピカピカと光った。
これは、メールが届いた証拠だ。
携帯を開いて素早く届いたメールを確認する。
やっぱり、錫也ではなかった。
メールの主は月子で、今何処にいるかという内容だった。
部屋で寝ていたから今からいくというメールを送信して、肌寒さを感じる外へと歩き出した。




どうせみんな屋上庭園にいるだろうと思い、屋上庭園に来た。
案の定みんな屋上庭園にいた。
月子達を探すが、中々見付からなかった。
屋上庭園の端の方へ来た時、キャラメル色の長い髪が視界に映った。
やはり、それは月子だった。

「つき――」

声をかけようと思ったけど、かけられなかった。
喉に、口に出そうとした言葉が突っ掛かって言えない。
私の目の前に広がる光景は、いつになく私を傷付けた。
錫也がつけていたマフラーを月子に巻いていた。
そして、二人で笑いあって空を見上げた。
その様は彼氏彼女のようで、体が動かなかった。
二人はお姫様と王子様で、お似合いなのだ。
醜い心を持った私じゃ釣り合わないんだ。

「那奈…」
「っ一樹会長…」

右側から声がして、そちらを向いていたのが一樹会長だった。
一樹会長は何処か悲しげな顔をしていた。

「こっちこいよ、翼も会いたがっていたぞ」
「そう、ですね。この頃翼くんに会わなかったし」

今度こそちゃんと笑っていたと思う。
でも、頬に生温かいものが伝った。
あれ、なんでだろ。

「那奈、こっちにこい」
「かずっかいちょ…」

手を引かれ屋上庭園から抜け出した。
行き着いた場所は生徒会室。
一樹会長は外を眺めていて私はソファーに座っていた。
暫く続いた沈黙を破ったのは一樹会長だった。

「なあ、お前が泣いたのは月子と錫也が理由か?」
「違います…目にゴミが入っただけです」
「嘘をつくな。お前が泣くのが見えて俺はお前の所に行った」

ああ、そういえばこの人は星詠み科だったんだっけ。
厄介な力を持った人だ。

「わかってるならいいんじゃないですか」
「確証がないから聞いただけだ」
「…もう、いいんですよ」

全部最初からわかりきっていたことだ。
私がただ、その事実を信じたくなかっただけ。
まだ幼馴染みという立場にすがりついて錫也と一緒にいたかっただけ。
全て私のためだ。

「お前は――」
「那奈っ…」
「錫也…どうしたの?」

生徒会室の扉が荒々しく開き、錫也が現れた。
一体どうしたというのか。
屋上庭園に月子と一緒にいたのに。

「那奈、何でないてるんだ…?まさか、不知火会長が…」
「違うよ、目にゴミが入って痛かっただけだよ」

あぁ、この言い訳を使うの今日三回目だ。
もうちょっといい感じの言い訳を考えないとな。

「不知火会長、那奈はもらってきます」
「錫也、月子のとこいっていいよ」
「那奈、顔洗いにいこう、な?」

錫也が私に微笑んだ。
私はそれ以上錫也に何も言えなかった。
だって私の目を見て話してくれたから。
いつも月子しか見ていないのに。
私を見てくれないのに。
私の手を握って私の目を見て私に笑いかけてくれた。
嬉しかった。
ただただ嬉しくて、笑いたかったのに嬉しくて涙がでそうだった――――




お手洗いに行って顔を洗って又屋上庭園へと向かった。
月子は弓道部の人達と話しており、哉太はいなかった。

「あっち行こうか」
「え、…」
「嫌か…?」

嫌じゃない。
寧ろ凄い嬉しい。
だって、錫也が私と二人っきりになってくれるって、月子じゃなくて私を選んでくれた。

「いい、よ…」

錫也は私ににこりと微笑んで、手をとってエスコートしてくれた。
本当に何でこんな優しいのだろうか。

「……」
「……」

屋上庭園の隅の方へと来て、ベンチき座った。
私と錫也は二人して無言になり、空をただただ見上げた。
錫也の横顔は何かに恋い焦がれているようで、私の胸を締め付けた。
その何かを、私は知っている。
段々錫也の横顔を見ているのが辛くなり、空を見上げた。
綺麗な星空に、沢山の流れ星。
あぁ、どうか明日も錫也の隣にいれますように。



流星群に願う明日は、


20121014
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