昨日と同じ。
一昨日とも同じ。
一昨々日とも同じ。
一週間前とも同じ。
一ヶ月前とも同じ。
錫也は私を見てくれなかった。



「だるーい」
「どうしたの?体調でも悪い?」

月子は優しい。
たるいなんて、ただ生活するのがめんどくさくて言ったことなのに、私を心配してくれる。
私が、最低なことを考えているのに。

「月子、大丈夫だよ。那奈はただ、授業が面倒くさいだけだから」
「そ、そうなの?」
「錫也…少しは私を心配しなさいよ…。月子、体調が悪い訳じゃないから安心して」

錫也の一言一言が、ナイフのように私の胸を突き刺す。
最初は小さなナイフだったのに、段々大きなナイフへと変わって私を指していく。
血が出たって私は泣けないの。
笑って過ごすしかないんだ。




「あれ、錫也?」
「…那奈?」

寮に帰ろうと廊下を歩いていたら、私の進行方向から錫也が歩いてきた。

「どうしたの?」
「月子を探してたんだけど見つからなくて。…あ、これ那奈にも」

鞄をゴソゴソと漁って、可愛いラッピングがされた包みを出された。
それを受け取ると、クッキーの香ばしい匂いがふわり、とした。

「…クッキー?」
「あぁ、作ったから渡そうと思ってさ。月子、知らないよな?」
「うん」

そっか、じゃあまた明日な、って言って、私が来た方向へと歩いていった。

今渡されたこのクッキーも、月子のついでになんだ。
だって、私を探して渡そうとはしてくれないんでしょ?
月子だけにあげると月子や哉太が不振がるから、態々私にまで作ってくれてるの。
私に真っ先に渡すことなんてなかったからはっきりとそう言える。
月子から渡されることだって度々あったから。
私は“ついで”でしかないんだ。
また胸が、つきん、と痛んだ。
咄嗟に胸の辺りを押さえてしゃがみ込んだから、錫也から貰ったクッキーを離してしまい、クッキーが床に叩き付けられる音が廊下に響いた。
身体を丸めて、頭を膝に埋める。

「っ…、ふっ…」

私の口から小さく声が漏れた。
泣きたかった。
でも、涙なんて流れなかった。



君を思い明日も泣きます。


20120903
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