「おはよう」

自分の教室へと入り、その言葉を口にした。
偽りの笑みを浮かべながら。

「おはよう、那奈」
「おはよう、那奈ちゃん」

教室の真ん中のとこで話をしていた錫也と月子が振り返って、私に挨拶をした。
私はもう一度、おはよう、と言った。

この二人は気付いてない。
私が、二人で会話してるのを見て傷付いてることに。
毎朝毎朝、仲睦まじげに話をしている二人はまるで恋仲のよう。
錫也の月子を見る優しい視線は私を傷付けた。





「ん―っ…疲れた―!」

午前の授業が全て終わり、昼休みに入った。
私は椅子の上で伸びをして机に倒れ込んだ。
顔を横に向けて、錫也の方を見た。
錫也の横には既に月子がいて、朝のように二人で話していた。
胸が、つきん、と痛んだ。
だけど、私はこの痛みを消す方法を知らない。
ただただ、この痛みに堪えるしかないの。

「那奈、お弁当作ってきたから一緒に食べよう?」
「うん、今行く」

私の視線に錫也が気が付いたのか、声をかけてきた。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、錫也達の所へ向かった。

「屋上庭園でいいかな?」
「それでいいよ」

こうやって話す時も、決して錫也は私を見てはくれない。
月子に視線を向けて話をする。
何故なのだろうかだろう。
昔からずっと一緒に、同じように生活してきたのに、錫也は月子を見て私を見てはくれないの。
月子と私が同じような怪我を一緒にした時もそう、錫也は私を見てくれなかった。
私が風邪を引いても、私を看ずに月子と一緒にいた。
私が学校で虐められても、錫也はそれに気付いてくれなかった。
月子が虐められていた時は気付いたのに。
ああ、なんでなんだろう。
神様がもしいるとするならば、とても不公平な神様ね。



私を見てはくれませんか、


20120903
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