今も 「今でも私は必要?」 私と一樹しかいない生徒会室でその声は小さく反響して消えた。 一樹会長は驚いた顔をして私を見る。 「…名前、何言ってるんだ…?」 私と一樹は一年程前から付き合っていた。 だけど、月子が入学してきた辺りから私と一樹の関係は崩れ始めていた。 事あるごとに呼ぶのは月子。 私の名前を呼ぶのより月子の名前を呼ぶことが多い。 デートとかだって月子が熱出したとか、月子が怪我したとかで何度も断られた。 もう我慢の限界だ。 告白してくれた時に私にお前が必要だ、なんて言ってくれたけど、今でもそう言えるの? 「俺には、お前が必要だ」 そう言った一樹に、苛つきを覚える。 必要ないなんて言ってたら今頃殴ってたかもしれないけど。 「私じゃなくて、月子が必要なんでしょ?」 「名前…」 私がそう言うと、一樹は目を見開いて私の名前を呟くけど眉間に皺をよせてを見詰める。 その目が私にはお前やっと気付いたのかよ、と言われているようで胸が締め付けられた。 「私はもういらないって、はっきり言ってくれればいいじゃん」 「違う!俺はお前が…」 「嘘言わないで!!」 感情的になってしまって大声をあげた。 一樹は私の大声に怯んで何も言わなくなる。 涙がぼつりぽつりと頬を流れ落ちて生徒会室の床に染みをつくった。 「わかってた…でも別れたくなかったの。…だけど、我慢の限界」 「……」 あなたは私が楽しそうに話をする度辛い顔をしてた。 きっと、自分が私を裏切ってるってわかってたから。 それでも、私に付き合ってくれていた。 あなたはそういう人だったから。 でももういいよ。 あなたが辛い思いをする必要なんてないから。 「だから、バイバイ」 私はそう言って生徒会室を飛び出した。 後ろで私の名前を呼ぶ一樹の声が聞こえたが、今は立ち止まりたくなかった。 涙や鼻水で顔がぐちゃぐちゃで、誰にも会えるような顔ではなかったから。 私は寮の部屋に戻り一人泣きじゃくっていた―― 私が星月学園を卒業してもう三年がたつ。 はやいものだ。 私は今でも一樹と付き合っていた頃のことをよく思い出す。 あの時私が別れを告げなければ今でも一緒にいれたんじゃないかって。 ……でも、それはないだろう。 きっと、私が言わなくても一樹が私に言った筈だ。 私は弱虫で、まだ一樹を忘れられない。 今でもまだ携帯のアドレス帳に一樹が入っている。 きっと一樹のことだから変わっていないのだろう。 たまにそれを出して眺めるが、決して電話をかけたりメールを送ったりはしない。 一樹は私のことを忘れたりはしていないだろうが、私から別れを告げたのだからそんなことできやしない。 一樹もたまには私のことを思い出すのだろうか? ……なんて甘ったれてちゃいけない。 もう、忘れよう。 一樹はきっと新しい場所に踏み出して進んでいる。 私はずっと立ち止まっていたからもう進んでいかなくちゃ。 だからこれで本当にさよなら。 私は携帯のアドレス帳から一樹を出してメニューを開いた。 その中から削除を選んで画面をじっと見詰める。 削除しますか?と出ている下にあるはいを押すだけなのだが、手が動かない。 やっぱり私は弱虫だ。 進むと決めても一樹を忘れたくない。 私はグッと気持ちを抑え混んでボタンを押す決意をする。 「…バイバイ」 カチ、という無機質な音で私から一樹は消えた。 愛してた 突発的に書きたくなって一時間で書き上げた。 錫也が好きだけど、好きだけどついぬいぬいを書いてしまう…。 20130304 |