最後の最後

いつからだろうか。
私がいじめに遭いは始めたのは。
もう覚えてないない。
あんなに仲の良かった人達と、もう話もしない。

私は好きだった人とも別れた。
もう嫌だ。
こんな世界。
終わってしまえばいいんだ。






目を、覚ました。
私の知らない真っ白の部屋

「地獄、じゃないよね…」

自分でも馬鹿らしいことを呟いたと思う。
だけど、今まで生きていた世界より地獄の方が嬉しかった。

回りを見ると、テレビに私の服や下着が置いてあった。
やっぱり、地獄なんかじゃない。
ここは、 現実 だ。

「…名字…?」
「っ!……」

突然声がして、反射的に飛び起きた。
しかし、目を覚ましたばかりの体が俊敏に動くはずもなくて、パタリと布団に倒れた。

「おい、大丈夫か?」
「星、月先生…」

私の病室に来たのは、私が通っている星月学園の理事長兼保険医の星月琥太郎だった。

「なんの、用、ですか?」
「なんの用もなにも、自分の生徒が自殺すれば見舞いにも来る」
「……何で自殺しようとしたか聞かないんですか?」

それはお前が話さないだろ、と言ってなんにも聞かない星月先生。
やっぱ一番星月先生が落ち着く。

「で、どうだ?一週間振りに目覚めたのは?」
「一週間も寝てたんですね…。体がだるくて仕方ないですよ」
「体に異常があるとかないな?」
「ないですよ」

何か今度は質問攻めしてきた。
しっかりモノ食えとか、体は大切にしろとか、貴女は私の母親ですか。

「はいはい、わかりました」
「わかってないだろ」
「わかりましたって」
「………お前が目覚めたこと、先生に伝えてくる」
「あ─よろしくお願いします」

星月先生は病室から出ていった。
数分後直ぐに戻ってきて、白髪のおじさん(白衣着てるから多分医者)が、体の不調はないかと聞いてきた。
ひとまず、大丈夫です、とだけ言ってお引き取り願った。
星月先生も仕事があるから帰る、と言って行ってしまって、私は一人になった。

一人になると、余計なことを考える。
どうして、私がいじめにあうのだとか、考えたくないことを考えてしまう。

「お前、死んじゃえば良かったのにね…アハハハハ!!!」

何処からか、高笑いが聞こえてきて、私は耳を塞ぎ、丸まって布団にもぐった。
すぐに、眠気が襲ってきて、私の意識は黒い沼へと落ちていつた。


次の日、目覚めたのは朝だった。
昨日の先生がきて、再来週からは学校に行ってもいいと言う。
正直、ずっと入院していたい。
学校なんて行きたくない。
でも、無理なんだろう。
再来週から、大嫌いな学校だ。






二週間後の日曜日に病院から学園へとかえってきた。
まだ左手には包帯を巻いている。

隣の部屋には、アイツがいる。
顔も会わせたくない。
そんなとき、コンコン、とノックする音がした。
もう夜の九時で、こんな時間に誰だと思いながら、重い腰を上げた。

「誰ですか?」

そう声をかけながらドアをあけた。

「…ッ…!」

そこにいたのは、隣室の月子だった。

「やっぱり。帰ってきてたんだ」

クスクスと、笑いながら言う。
一々人の癪に障るやつだ。

「…で、何か用?」
「用って、隣の藍ちゃんが退院したって言うから態々きてあげたのよ」

誰もそんなことを頼んでないのに態々くるとはご苦労なこった。

「そうですか、それはどうもありがとう。私はもう大丈夫だから。さようなら」
「見舞いに来たのにそれはないんじゃないの?」

月子となんて話したくない。
あんたと同じ空気を吸っているってだけで吐き気がする。

「私は話すことなんかないわ」
「…あんたって本当に苛々する」
「それはどうも。誉め言葉にしか聞こえないわ」

苛々するなら来なきゃいい。
態々来る必要はない。

「あんたなんて、死ねばよかったのに」
「……」
「ッ親にも誰にも必要とされてないんだから死んじゃえばよかったんだよ」

パンッ

乾いた音が廊下に響いた。
いい加減、我慢出来なくなった。
意見を一方的に聞いてやる筋合いはない。

「叩いたね…」
「叩いたけど何か?」
「明日、あんたがどうなるかわかっててやってるの?」
「別に、殺されたっていいわ」

本当に、死ねるなら死にたい。
殺してほしい。

「あんたのそういうところが気に入らないのよ!」
「別に気に入られたいとか思ってないから」
「っ…ふん」

月子は何にも言えなくなって、自室へ帰っていった。

「…はぁ…」

溜め息しか出なかった。
あれだけのことを言うためだけに来たのか…。

私も、自室へと戻った。
月子と話したことにより、かなり体力を消耗していた。
アイツに、言われたことに何も思わなかった訳じゃない。

“親にも誰にも必要とされてない”

確かにそうだ。私が死にかけても会いに来ない。
私を必要としてないんだ。
ドアに寄り掛かっていたが、段々寒くなってきて布団にもどった。
布団に入ってもアイツが言った言葉が頭の中でグルグル回る。
もう、本当に死んでしまいたかった───






翌朝、気だるい体に鞭を打ち、登校した。
寮から出ると、回りの視線が私に突き刺さる。
この学校の殆どは、アイツの見方なのだ。
教室につくと、先程よりキツい視線が私に送られる。

「…アイツ来やがったよ…」
「…本当にな。学園のマドンナ虐めといてよくくるよ…」

上の会話には語弊がる。
私は月子を虐めて等いない。
アイツが、私を虐めているのだ。

「あ、藍ちゃん!!」

月子が、私に話し掛けてきた。
昨夜とは全然違う態度。
私はそれを無視して自分の席についた。
そうすると、クラスメイト達は怒り始める。

「おいおい名字さんよお。マドンナが話し掛けてるのにそれはないんじゃないか?」

クラスメイト達の話も無視する。
月子の味方の奴らなどと話をするものか。
七海くんが月子の横にいたけど何故か私を怒らなかった。

「チッ、無視かよ」

何時もならそれで終わったのに、今日は違かった。
クラスメイトが私に近付いてきて、私の左手首を捻り上げた。

「いっ…」
「なんだ、人並みに痛いなんて感情があるのか。こんな痛みより痛い思いをしてるのは夜久さんなんだよ」

そういって私の手首を握る力を強くする。
まだ抜糸したばかりで、傷口はすぐに開いた。
赤い血が包帯に滲む。

「お前がいるとさ、教室の空気悪くなるんだよ」
「っ……はな、せっ……」
「だからさあ、…」
「何してるんだ」

クラスメイトを止めたのは、懐かしい声。
私の、愛しい人だった…はずなのに。

「東月か…。コイツが夜久さんを無視するからだよ」
「そんなことはいいから手を離して」

東月くんが私を庇う。
そんなん逆効果だよ。

「なんでだよ!コイツがわる」
「いいから離せよ」
「…つ…」

東月くんの纏うオーラが変わり始めヤバいと思ったのかクラスメイトは手を離した。

「っ……」
「大丈夫か?痛かっただろ?」

そう言って東月くんが差し出した手を弾いた。

「結構よ。一応礼だけは言っておくわ」

月子が、東月くんに大丈夫?なんて聞きにいっている。
叩いただけなんだから大丈夫だろ。

「君さあ、いい加減にしなよ」
「誰?」
「君に名乗る必要はないよ」

なんか赤髪の奴が話し掛けてきた。
こんな奴クラスにいたかな。
…駄目だ、クラスメイト覚えてない。

「君が月子を虐めてたんだって?」
「だから?」
「自分勝手に人を虐めるとか最低だと思わないの?」
「別に」
「君に月子は虐めさせないよ」
「あっそ」

こいつうざい。
月子がそんな大切なら四六時中見守ってろ。

「君、死んじゃえばよかったのにね」
「…っ…」
「自殺したいのは君じゃなくて月子の方だよ」
「土萌くん、やめろ」
「なんでさ、錫也。コイツが悪いじゃないか」

いい加減我慢ならない。
お前に私の何がわかると言うのだ。
なにも知らないくせに私を語るな。
私の頭の中で、プチンと何かが切れる音がした。

「…あ…に…」
「なに?聞こえないし」
「あんたに私の何がわかるのよ!私のことを何も知らないくせに!好き勝手に言わないで!」

土萌とか言った奴のネクタイをひっ掴み、無理矢理引っ張った。

「月子が守りたいならコイツから目を離さなきゃいいでしょ!!」
「…っはなせよ…!!」
「あんたが先に突っ掛かって来たんだろ!!」
「お前が悪いじゃないか!!」

ああ、そうだ。
全て、私が悪いんだ。
最初からわかってたはずなのにこの道を選んだ。

「名前!離せ」
「っ……」

東月くんに羽交い締めにされ、赤髪から離された。

「なんで…」

泣きたい。
でも泣けなかった。
涙なんて、もう渇れてしまったから。

「名前、落ち着きなよ」

背後から東月くんの声がする。
だけど、その声を聞いても落ち着くことなんて出来なかった。

「……っ」
「…うわっ…」

身体を無理矢理捻って東月くんの腕の中から逃げ出した。
もうこの教室にもいたくなくて、そのまま走り出した。






特に、いく場所なんてなかった。
ただ、無我夢中に走っていた。
気付いたら屋上庭園にいて、ペタリと床に座り込んだ。

「はぁ…はぁ…」

病院に入院してたりで運動してなく、体力は落ちていた。
教室から屋上庭園に来るだけで、身体は悲鳴をあげる。

「っ…ふぅ…」

息がうまくできなくて、床に倒れこんだ。

「もう…嫌だ…」

私なんかいなくてもいいんだ、この世界には。
私は、必要のないモノ。
そう、ただの邪魔者。

だいぶ呼吸も落ち着いてきて、身体を起こした。
目に飛び込んでくるのは、蒼。
綺麗な、雲ひとつない空。
私とは正反対。
胸が痛くなる。

「あははは…」

なんか自分を嘲笑いたくなる。
馬鹿なことばかりを繰り返す。
行動を起こしては公開の繰り返し。
もう、疲れた。

ゆっくりと立ち上がり、屋上の端へと歩く。

この学校の屋上はフェンスがなくて、1m程の塀があるだけ。

ゆっくりと塀に登って立ち上がり、上を見上げた。
空は蒼くて、まるでアイツのようだった。

「ははっ…最後までアイツが上かよ」

世界の全てが私を拒絶しているようだ。
ああ、ひとりぼっち。
これ以上生きていたら、自分がおかしくなりそうだ。

段々死に近付いてきているのがわかってきてか、昔のことを思い出す。
私の恋人のこととか、アイツと仲良くしていた頃のこと。
私が、恋人と別れた時のことも。

その時、バタン、と荒々しくドアを開ける音がした。
その音の正体を確かめるため、ゆっくり振り向いた。

「……」
「名前っ…」

ここまで走ってきたのか、肩で息をしていた。
でも、もう遅いんだ。
錫也が何しようと、もう止められない。

「ねぇ、錫也。最初から、こうすればよかったんだよね」

そう言ったとき、渇れた筈の涙が溢れ出てきた。

錫也が名前!!って叫んで手を伸ばすけどもう終わり。
最後にあなたの声が聞けてよかった。

ゆっくりと身体が傾く。
蒼い空が目に映る。

月子みたいな空。
そう、私の大嫌いな月子みたいな。

「クソったれが」

そう言って、月子のような蒼い空にツバを吐き捨てた。
あはは、本当に最後までアイツに縛られるんだ。

これから来る衝撃に、ゆっくりと目を閉じた。


最後最後



なんかすいません…。
無駄に長くてグダグダですね。
実は続いたりするんですよね(笑)

20120704

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