ひかり 私は過去を振り返らない。 振り返ったとしても、きっと笑って前に進むことができるだろう。 一樹に、前に進む楽しさを教えてもらったから―― 一樹が星月学園を卒業する時だ。 私は一樹が好きだったし、一学年違うから一緒には卒業できなくて物凄い泣いた。 一樹と過ごした二年間はとても楽しかったし、一樹のいない生活を私は考えられなかった。 「っ…一樹、卒業しないでよ…っ!」 「それはできないお願いだな」 一樹はそう言って私の頭をぽんぽんと、子供をあやすように軽く叩いた。 私はその行動で、さらにぽろぽろて涙を溢した。 「あんま泣くなよ、いけなくなるだろ」 「…いかなきゃ、いいよ。一樹いなくなったら寂しいもん…」 私がそう言うと、一度目を見開いてから優しく笑った。 それから私の髪の毛をぐしゃぐしゃと崩し始めた。 「ちょっ…汚くなる…!!」 「名前にはこれぐらいが調度いいんだよ」 よくない!って叫びたかったが、一樹の顔が少し悲しそうに歪められていたから黙った。 私が俯くと、一樹はふっと笑って喋り始めた。 「俺だってな、この学園を卒業するのは寂しい」 「…うん」 「だけど俺は進まなきゃいけない。この学園生活が楽しくなかったとかじゃないんだ。学園生活が楽しかったからこそ、進んでくんだ」 一樹の言ってることがよくわからなくて首を傾げる。 一樹はさっきみたいに私の頭をあやすように軽くぽんぽんと叩いた。 「楽しい思い出は振り返れば綺麗に輝いてる。でもそれは所詮思い出だ。新たに楽しい思い出を作るために進むんだ。辛いこともそりゃああるだろ。今みたいに別れもある。だけどそれは、楽しいことへの道標なんだ」 「かず、き…」 一樹の言葉は私の胸にすとんと落ちてきて、じんわりと温かくなる。 胸の奥を、優しく暖めていく。 「すき…」 自然と、その言葉は口に出ていた。 私は自分が言ったことを理解していなかったが、一樹の顔が吃驚した顔になっていて私はハッとして我に帰った。 「ち、ちがっ…!」 「…名前…」 頭をがしがしと掻くような仕草をして一樹はその場にしゃがみこんだ。 私は一樹になんて言われるかわからなくて不安で自分の手をぎゅっと握った。 「…っ…」 振られるかもしれない。 私は不安で涙がまた溢れてきた。 私の頬を滑り落ちてアスファルトに染みをつくる。 一樹は立ち上がって私の頭をぽん、と一回だけ叩く。 顔をあげると、若草色の優しい目と目があった。 私と一樹の間を、まだ春には遠い風が通る。 「…その返事は…」 「っ……」 私は目を瞑る。 何を言われるかもうわかったから。 私は、きっと振られるから。 「―――」 その言葉に、私は目を見開いた。 風に掻き消されそうな声に私は、また来年、と言って笑った。 たくさんの光に囲まれて ぬいぬいに励まされる小説が書きたくて書いたらこうなったよね。 20130214 |