昔から東月錫也と私は張り合っていた。
否、張り合っていたというよりも私が一方的に突っ掛かっていたという方が正しいのかもしれない。

私がテストで99点だった時東月錫也は100点だった。
私が50m走で7.5秒だった時東月錫也は7.4秒だった。
成績だって東月錫也に負けた。
全て私は東月錫也に負けていた。

最初は勝ち負けなんてどうでもよかった。
でも、いつからか東月錫也に勝ちたいと思い始めた。
夜久月子と仲良くしていた東月錫也を見て、こいつには絶対に負けないって。
女にデレデレしてる奴には負けたくなかった。
そう昔は思っていた。

中学三年になり、進路を決めることになった。
私や東月錫也の成績だと、此処等の学校の一番頭がいいところに入れた。
私はそこに入る予定だったのだが、東月錫也は違った。

「東月は、どこの高校いくんだ?」
「…俺は…星月学園」

その言葉を聞いて私は固まった。
星月学園。
そこはここから離れた場所にあり、専門的なカリキュラムを組む学校であった。

「…夜久さんがそこにいくから…?」

自分でそれを聞いたが、胸の内はとても冷えていて虚しさが胸を占めた。
私は東月錫也に他の理由があると願っていた。
私より頭が良くて何でも出来るのに、それをしないことが私には許せなかった。
だけど、私の期待は裏切られた。

「…うん…」

小さく溢された言葉だったけど、私には届いた。

「…そう」

私はそれだけ言って教室から出ていった。
腹の底からドス黒い感情が浮き上がってくる。
ただただ苛ついていた。
やれば出来るのにやらないことに。

「…っ…」

気が付けば、頬から涙が伝っていた。
私は、負けてるんだ。
夜久月子に。
昔は女にデレデレしてる奴に負けたくないって思っていたけど、それは違う。
私が夜久月子に嫉妬してたんだ。
私が東月錫也を好きだったんだ。

「…、…」

でも、今更気付いても遅い。
だって、東月錫也は夜久月子が好きだから。
好きな子のためじゃなかったら遠い高校までいかないだろう。
嫉妬とか色んな感情が混じり合って気持ち悪くなった。
屋上に行って隅に頭を抱えて座り込み、一人静かに涙を流した。
その日から東月錫也に張り合うことをしなくなった。
いや、東月錫也に関わらなくなった。
東月錫也に関わらないということは、七海哉太や夜久月子にも関わらなくなったということだ。
私はただ勉強だけをして残りの中学校生活をした。
そして、私は超難関高に入学した。
しかし、その生活には何の面白みもなかった。
つまらない。
その一言しか言いようがなかった。
朝起きたら学校に行って勉強をし、帰ってきてまた勉強をして寝るだけの生活。
張り合う人なんていなかったし、他の人と仲良くする気がなかったから一人で過ごした。
高校生活に入って四ヶ月がたち、夏休みに入った。
勉強しかやることがなくて、勉強が終わったらただだらだらしていた。
八月に入った頃、親の海外への転勤が決まった。
私は日本から離れる気はなく日本に残りたいと親に言った。
すると、案外簡単許可がおりた。
しかし、他の寮のある高校へ転入することになった。
私はどこでもよかったのだが、知り合いが理事長をやっている高校にお世話になることになった。

「星月学園にしようて思うの」
「……ふーん」

星月学園。
その言葉を聞いて一人心臓を跳ねさせた。
星月学園は東月錫也が行っている高校だったから。
今更会ってなんだというのだろうか。
もう私のことを忘れているかもしれない。
しかし、私は心の何処かで期待をしていた。私とまた張り合ってくれるかもしれないって。
私を、見てくれるかもしれないって。




まだ蒸し暑い九月の上旬。
私は山の中にある星月学園に来ていた。
校門の前に立ったまま私は暫くそうしていた。
この先に進んで行けば、東月錫也に会うかもしれなかったから。
期待を膨らませてしまえば、会って悲しい思いをするのは私だ。
だから落ち着いて、期待なんてしないで。
そう考えても進む気にはなれず、顔を俯かせた。
その時、懐かしい声で名前を呼ばれた。

「…名字…?」
「っ…」

俯かせていた顔をバッと上げた。
その声はやはり東月錫也で、私の胸を締め付けた。
彼が私の名前を呼んだということは、彼は私のことを忘れていた訳じゃないのだ。
小さな期待が、大きな期待へと変わっていった。

「…久しぶり、だな」
「そう、だね…」

正直、気まずかった。
あの日を境に話さなくなったのに、ここで笑って話をするような馬鹿ではない。
話すことがないから私達は暫く無言で立ち尽くしていた。

「…先生のとこ、案内するよ」
「…ん、ありがとう…」

沈黙を破ったのは東月だった。
私に背を向けて歩き出した東月に私も足を踏み出した。
これは私の迎えに来た、ということなのだろうか。
しかし、何故東月なのだろうか。
普通、先生が来るものじゃないのか…?

「……、…」

がらがらとキャリーケースを引き摺りながら歩いてると、東月が私へと振り返った。

「ど、どうしたんだ?」
「荷物、もつよ」

そう言って、私が引き摺っていたキャリーケースを奪ってまた歩き始めた。

「ちょ、私の荷物なんだから私が持つよ!」
「…女の子に重い物は持たせられない」

女の子。
その言葉ひとつで、私は舞い上がってしまう。
東月は夜久が好きだから諦めなければいけないと思っていたのに、小さな期待が沢山集まって諦められなくなってしまう。

「……」
「…名字?」

歩みを止めた私を不思議に思い、東月が私に近寄ってきた。
私の頬には泣きたかったわけではないのに涙が伝っていた。

「っどうしたんだ!?」
「……、き」
「っ…!」

私が小さく呟くように吐いた言葉はしっかりと届いたようで、東月の動きが止まった。
私は東月の顔なんて見れる筈がなく、俯いた。

「…俺、名字に嫌われてると思ってた」
「…きら、いなわけない…」何度も何度も涙を手で拭うが、それは止まる気配を見せることはなかった。

「…俺も、…名字のこと好きだよ」
「へっ……!」

そんな返事がくると思ってなくて、素頓狂な声をあげて俯いていた顔を上げると、暖かな温もりに抱き締められた。

「と、づき…」
「…暫く、このままでいさせて…」

私は東月の言葉に従い、暫く二人で抱き合っていた―――



れてやっとキモチ


ああああああ/(^p^)\
オチとかなんですかねわかりません←
もうちっと続き書くべきだったか…。


20121107

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