言わない

「Hello,Shiranui(こんにちは、不知火)」
「そんな発音よく言わんでいいし不知火先輩と呼べ」

生徒会室に用事はなかったが取り敢えず暇だったからお邪魔しにきたら、不知火先輩しかいなかった。
わざわざ英語で挨拶したのにも関わらず日本語で返してきやがった。
まさかこの簡単な英語がわからぬほど幼稚な人ではないだろうに。

「月子達はどうしたんです?」
「お前歳上は敬えと教えられてないのか」
「お前のような白髪で変な前髪をした奴が歳上なわけがなかろう。前髪引っこ抜くぞ」
「スミマセンデシタ」

片言だったが仕方がない、許してやろう。
まったく、不知火先輩というのは本当に私の歳上だというのか。
青いネクタイを私に渡した方がいいと思うぞ、前髪野郎。
歳上としての威厳とか風格とか色々足らない奴だな、白髪野郎。

「名字は俺が嫌いなのか!?」
「………………………違いますよ」
「その間はなんだその間は!!」
「うるせぇ前髪芝刈機で削ぎ落とすぞ」
「スミマセンデシタ」

まあ仕方がないしらない先輩だからな、うん。
この人はぎゃーぎゃーうるさいけど……嫌いじゃない。
仕事溜めてたりするのは最低だけど案外いいことしてくれる人だ。
……ん?
なんで白髪頭先輩は私に嫌いかって聞いてきた。

「お前全部口から出てる」
「全部って臓器が?」
「違う。言葉が、だ」

言葉ってことは今までの全てがこの前髪エイリアン先輩に聞かれていたということなのだろうか。
まあいい………よくない!!
待てよ、私が嫌いじゃないとか色々言ったの聞いてたってことじゃないのか!?

「不知火、先輩…」
「な、なんだ…?」

いきなり静かになった私を不安そうに見て少し吃りながらも返事をする。
べべべ別に不知火先輩のその顔にきゅんとしたとかありませんから。

「私が嫌いじゃないって言ったの…」
「……、…」

うがあああああああああああああああああ。
なんてこった!!
名字名前、今まで生きていた中で一番恥ずかしい。
不知火先輩が言わなくたって聞いていたことぐらいわかるもの!
そのちら、と横に反らされる目、少し赤い頬。
ああああああああああ絶対に聞かれてたあり得ない。

別に不知火先輩が頬を染めたの気持ち悪いとかおもってませんから。

「あれ、名前さんではありませんか」
「あ、名前ちゃん!」
「ぬぬぬ、名前―!!」

ああ、騒がしくなってきた。
生徒会室の扉を開けて入ってきたのは颯斗くんに月子、翼くんだ。
何故にこの面子で出掛けてたのだろうか。

「月子ちゃん、何してたの?」
「職員室にね、書類を提出してきたの」
「三人で?」

うん、と頷いて笑う月子はビーナスのように美しい。
ああ、この私のようなちんけな存在が月子の友達であっていいのだろうか。
つか月子って呼び捨てしてる辺りからそんなの関係無くなってるがな!

「ぬぬっ、ぬいぬい顔が赤いのだ!」
「そうですね」
「あ、本当だ!顔赤いですよ会長」
「赤くない!俺が言ってるんだから赤くない!」

いやどうみても顔赤いですから。
現実逃避はよくないですよ知らない会長。
現実をちゃんとみないといつか社会から見離されますよ。
まあ私には関係ないがな。

「名前さん、何かあったんですか?」
「実は白髪頭とお話してたら突然赤くなったのだ」

簡潔に状況説明しようと思ったら簡潔にし過ぎたかもしれない。
これでは知らない先輩が妄想して勝手に赤くなったみたいだけど、知らない先輩だからどうでもいいか。

「……会長?」
「ままま、まま、待て、颯斗」
「仕事、終わらせるんじゃなかったんですか?」
「名前が話し掛けてきたから…」
「私悪くない」

私がそう言うと先程よりとても美しく怖く寒い笑みを浮かべながら会長…?、と颯斗くんは呼んだ。
会長はひいぃって情けない声を上げて椅子をガタガタ鳴らした。

「皆さん、耳栓宜しいですか?」
「大丈夫」
「オッケーなのだ―!」
「大丈夫だよ」

会長以外が大丈夫と口にすると颯斗くんは懐からミニ黒板を取り出して、綺麗な爪で黒板を引っ掻いた。
ギギギ〜って音が生徒会室に響いた。
私は別に大丈夫なのだが、みんなはこの音が駄目らしいのである。

「ふっ前髪白髪野郎ざまぁ」
「っく、名字!」
「さあ、休憩しましょうか。…四人で」

四人で、と颯斗くんの声が変に生徒会室に響いた。
それを聞いた瞬間、知らない先輩はピシッ、と机に座ってきびきびと仕事を片付け始めた。

「月子さん、お茶を淹れてもらえますか?」
「わかった。淹れるね」
「あ、月子。白髪頭の分もね」

私がそう言うと颯斗くん月子、翼くんはニヤニヤと笑い始めた。
まあ、颯斗くんと月子の場合ニヤニヤなんて笑い方じゃないんだけどね。
翼くんはなんか人を馬鹿にするようにわらってるからあんな奴は知らん。




「…どうぞ。はい、名前ちゃんのも」
「ありがとうございます」
「あんがと、月子ちゃん」

月子ちゃんのお茶はお世辞にも上手いとは言えないくらい不味い。
まあ月子ちゃん自信も薄々それに気付いているようなのだが。
月子ちゃんの茶を馬鹿にした奴は絶対に許さん。
この世から抹消してやる。
あ、イケメンは許します。

「月子、美味しいよ」
「そ、そうかな?」
「うん。私月子のお茶大好きだよ」
「ありがとう、名前ちゃん!」

そう言って抱き付いてきた月子を抱き締め返す。
このこスレンダーだけどとても身体が柔らかいです。
この柔らかいの分けてほしいぐらいの柔らかさなのです。

「会長、お茶どうぞ」
「おぉ、さんきゅ」

月子は私から離れて知らない先輩の元へとお茶を運んだ。
知らない先輩は月子のお茶をいつも馬鹿にしてるからいつかこの世から抹消してやろうと計画を立てています。

「やっぱりお前の茶は不味いな」
「酷いですよ!一生懸命淹れてるのに…」
「すまんすまん。…美味しいよ」

ああ、胸が痛い。
月子ちゃんに笑いかけて、頭を撫でる。
この人は不味い不味い言って最後に美味しいって言う。
そう、月子に甘い。
それに、月子と私を見る目が違うのだ。
私はただの大切な星月学園の生徒。
月子は大切な星月学園の生徒であり、不知火会長が守りたい女の子。
といった所だろうか。
心臓を素手でひっ掴まれて身体から引き出される感覚がする。

「……」
「…名前さん?」
「なんでもないよ」

颯斗くんにそう言って笑いかけた。
上手く笑えたかなんてわからない。
今は笑ってないと、目から生暖かい液体が溢れ落ちてしまうような気がしたから。

まだ、不知火先輩に私の気持ちは伝えられない―――






ぬいぬいは不憫なのが好き。
不憫とかあちき書けないんですが。
ぬいぬいの時たま真面目になる所が好き。


20120901

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