愚か者は誰

「好きです、琥太郎センセ」

昔、そう生徒に迫られた。
星月学園の数少ない女子生徒の名字名前は、あってすぐに一目惚れしたと、俺に言ってきた。
だが、俺とあいつは教師と生徒だ。
俺もあいつが好きだったわけじゃない。
大切な生徒。
ただ、それだけだったはずだったんだ。





「琥太郎センセ―」
「…またお前か」
「またとは失礼ね。愛しの琥太郎センセ―に会いに来たのよ」

はぁ、と溜め息がもれる。
名字は休み時間になると毎回保健室にくる。
毎回いってくる言葉はおなじで、好きだとか、愛してるしか言わない。
たまにお菓子も作ってくるがお世辞でも美味しいとは言えない不味さだ。

「今日もお菓子作ってきたの―」
「いらいからな」
「んもう…琥太郎センセ―のいけず―」

小さな包みを開いて俺の前に差し出す。
中身はクッキーだった。
笑顔で差し出してくるものだから仕方なく一つつまんで口にふくんだ。

「…………」
「…美味しくない、ですか?」

こいつにしては珍しくて俺は黙ってしまった。
何故かわからんが今日のクッキーは美味しかった。

「…うまい」
「え!?本当!?」「あぁ」

きゃー琥太郎センセ―に褒められた!!そう騒ぐ名字。
こいつが来ると騒がしくてならん。

「授業始まるから戻れよ―」
「え―琥太郎センセ―との愛の育みをしてない」
「するか」

女子に本気で拳骨をするわけにはいかないから、弱めに拳骨した。

「いてっ」
「早くもどれ、直獅の授業だろ?」
「え、なんで直獅先生の授業だって知ってんの。やっぱ私のこと好きな…」
「調子に乗るな」

頭を軽く叩くと、わかりましたよ、と言って保健室から立ち去ろうとする。
ドアから出るところでこっちに振り向いた。

「先生大好きですよ!!次の時間も来ますからね!!」
「あ―はいはい。健康体はくるなよ―」

名字は笑って走っていった。
あいつが出ていったと同時に静かになる部屋。
俺はなんだかんだ言ってあいつと過ごす時間が嫌いではなかった。
あいつに対する感情も、段々前のものと変わっていった。
だが、教師と生徒という立場が邪魔していたのだ。
俺は理事長と保険医をしていて、学園のトップが生徒と付き合うなんてシャレにもならない。
同じことを毎日繰り返して、いつの間にかあいつは三年になっていた。「琥太郎センセ―私の就職先は琥太郎センセ―のお嫁さんですから」
「残念だがその職業はない」
「ありますし!!」

もう進路を決めないといけない時期だ。
相変わらず名字は俺の所にきて好き、愛してる、と言い続けてる。
俺には、それに応えられるような感情が芽生えていた。
ここでもやはり立場が邪魔をしていた。

「そろそろちゃんと進路を決めろよ」
「だから、私は琥太郎センセ―の…」
「俺達は教師と生徒だ。付き合うことは許されない」
「っ…それでも、私は琥太郎先生が好きなんです!!」
「俺は、それに応えられない」
「っ…!!」

俺にこいつの未来を縛ることなんて出来なかった。
したくなかった。
だから、つき離さなければいけないと、俺は思ったんだ。

「もう保健室にはくるな」
「……」
「これからは自分のことを考えろ」
「…っ…」

俺がそう言うと、名字は走って保健室から出ていった。
あいつは泣いていた。
だけど、俺は追うようなことはしなかった。

俺が突き放した日から、名字は来なくなった。それが、当たり前だったのに、何故か心は冷たかった。





気付けばもうあいつの卒業に近付いていた。

「………」

学年末は仕事が増えて大変だ。
書類があちらこちらから舞い込んでくる。

「…はぁ…」

仕事に一段落ついて、窓から下を見下ろした。
そこには、名字が、いた。

「っ……」

つい、じっと見つめてしまう。
あの時突き放してから見ていないかったあいつの姿。
あいつは笑っていて、普通の女子高生だった。
回りには男子生徒がいて、俺はそいつらに嫉妬していた。
つい、手に力がこもり、爪が食い込む。
今更、自分は何を考えているのだろうか。
突き放したのは自分なのに、とても後悔している。






今日はあいつの卒業式だ。
俺は壇上に立っていた。
理事長としての挨拶は、無事に終わった。
名字を見付けたが、目が合うと反らされた。

卒業式が終わって、俺は保健室に行った。
まだ、名字のことを引きずっていた。
俺らしくもない。

保健室につくと、机の上に何か置いてあった。
小さな包みと手紙。
小さな包みには見覚えがあった。
いつもあいつ、名字が俺に持ってきてくれていた包みだ。
手紙を手に取って、開いた。



琥太郎先生へ今までありがとうございました
先生といられて、とても楽しかったです
本当に、ありがとうございました
先生のこと、大好きでした

名字名前



俺の腕に力が入らなくて、ぶらりと垂れ下がる。
小さな包みを取って、ソファーに座った。
包みを開くと、クッキーが見えた。
ひとつ摘まんで口にいれた。

「っ、…まずい…」

俺は柄にもなく泣いてしまった。
名字と笑いあっていたあの頃に戻れるなら、戻りたかった―――――





「…はっ…」

久しぶりに、昔の夢を見た。
懐かしい、夢を。
嫌な汗をかいていて、服が張り付いて気持ち悪い。

そんなとき、インターフォンが鳴り、玄関に向かった。
ドアを開けると、配達員がいた。

「お届け物です。星月琥太郎さんでよろしいですか?」
「はい」

配達物をもらって部屋に戻った。
葉書が二枚に封筒三つ。葉書は二枚とも公告で、ゴミ箱に捨てた。
封筒は電気料金と携帯料金と……あいつ、からだった。
封筒を開くと、写真が入っていた。
それに写っていたのは、名字と俺の知らない男。
名字は純白のドレスを着ていて、綺麗だった。高校のときより随分大人びていた。
二人は幸せそうに笑っており、はじっこに結婚しました、なんて書いてあった。

「…そうか、あいつが…」

その言葉しか出てこなくて、俺はベッドに寝転んだ。

あの時の感情が戻ってきて、頬に一滴涙が伝った。



一番の愚か者は俺
(また、失ってから気付くんだ)
(その、大切さに)


なんか突発的に書きたくなって書いちゃいました テヘペロ☆
素直になれない星月先生可愛いです グフエヘ
これ有李のこと完全に忘れてました。
最後付け足しました(笑)

20120722

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