ねぇ、

「好きだよ」

錫也の口から紡がれるその言葉は、麻薬のようだだ。
脳髄が甘く痺れる。
心に降り募って私を温める。

「私もだよ」

くす、と錫也が笑って、小さくリップ音をたてながら私の唇にキスをした。
キスをされるのは嬉しいのだけれど、何故呼び出されたのかが気になった。

「…どうして、屋上庭園にに来たの?」
「…気になる?」

夕方、突然錫也から電話がきた。
今から外に出られるかって。
錫也は夕方になると、私を出掛けさせようとしないから、こんなことは珍しかった。

「そりゃあ…気になるけど」
「わかった。おしえてあげる」

そう言って、錫也は屋上庭園の隅へと移動する。
私も錫也の後に着いて移動をした。

「……」
「…え、錫也っ!危な…!!」

背筋が凍るというか、身体中が一気に冷えた。
理由は、錫也が塀の上へ乗り上げたからだ。
一歩間違えれば、下に落ちて死んでしまうのに。

「大丈夫だよ、落ちないから」
「でも…」

錫也は笑うけど、いつもと違う笑い方。
少し、暗い。
胸がざわざわして、危険だと警報が頭に鳴り響く。

「ねぇ」
「…な、に…?」
「俺も死ぬからさ、心中しよ?」
「…え…?」

錫也が、にっこりと笑った。
今度は、いつもと同じ笑い方で。
この笑みから、錫也は本気なんだととれた。

「……」
「名前は、俺と死にたくない?」

死にたくない訳じゃない。
生きていたい、錫也と一緒に笑い合っていたいのだ。
でも、錫也がいなければ、私の世界は成り立たない。
全て、錫也がいなければ形成されないから、だから…

「…いいよ、錫也と一緒なら」
「名前…」

私が手を差し出すと、引っ張られて塀の上へと持ち上げられる。
正直言えば、下が見えて怖かった。
でも、錫也の顔がは本当に嬉しそうで、私も嬉しくなってそんなの気にならなくなった。

「錫也、大好き」
「俺も、名前が大好き」

そう言い合って、食むようなキスをした。

ゆっくり、重力に従って身体が傾いていく。
握っていた錫也の手をぎゅ、と力強く握った。

「好き」



俺も死ぬから心中しよ


Tittel by 自
20120825

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