軍人パロ




「名前―?」
「なによ」

俺の幼馴染みの名前。
女だというのに軍隊に属している。
戦いなんかにでないで普通に暮らしてほしいのに…。

「まだ、脱隊しないのか?」
「するわけないでしょ。入ってまだ一年もたたないわよ」

はあ、と溜め息を吐いた。
心配だから俺は言うのに、話を全く聞いてくれない。
戦いに出て死なないなんて保証はどこにもないというのに。

「はぁ…」
「溜め息吐かないでくれる?……あ、右京様!」

角から現れた俺達が属する軍の大総統に寄っていく名前。
右京大総統は名前の憧れであり―――好きな人だ。
だから名前はこの軍に入った。

「右京様お久し振りです。今御帰還で?」
「ああ、そうだ。中々終わらなくてな」

頬を少し朱に染めながら、右京大総統に笑いかける。
正直名前には右京大総統に近づいてほしくない。
だって右京大総統は名前をただの駒としか思っていない。
女だから敵を欺く方法があるかもしれないから右京大総統は名前を軍に置いている。用が無くなったらすぐに捨ててしまうだろう。
俺は右京大総統の俺は右京総統をキッと睨み付けた。

「お―怖い怖い」
「…右京様?」
「……」

右京大総統はおどけたように言った。
名前は右京大総統が何故そんなことを言ったのかなんてわかってない。
俺は名前がこの軍に入るから入っただけで、いつだって寝返ることはできる。
名前がこの軍からいなくなればの話だが。

「ああ、すまない。時間だからいかなければ」
「はい。お時間とらせてしまってすみません」
「別にいいさ。名前と話せてよかったよ」

右京大総統がそう言うと、先程より顔を赤くして俯いた。
右京大総統は名前の頭を撫でてから、俺の横を通りすぎていった。
俺の横に来た時右京大総統はこう言った。

「束縛が強いと嫌われてしまうよ」

バッと俺は振り返って、右京大総統を見た。
右京大総統は顔だけを俺の方に向けて意地悪そうに笑った。
嫌われたらあんたのせいだ。
俺は名前を大切に思ってやっているのだ。
名前のことを只の駒としか思っていない人にそんなことを言われたくない。
右京大総統は俺のことを嫌っているだろうが、俺のことを始末したりしない。
俺が名前を守ろうとしているから。
大切な駒を守るために使える駒だからだ。

「……翼…?」
「…何…?」

俺がそう答えると、名前は眉間に皺を寄せて近付いてきた。

「眉間の皺酷いよ?」
「気のせいだぬ〜ん」

名前の眉間の皺も充分凄いんだが。
顔をプイッっと背けて歩き出した。
今は笑えそうになかったから、いつもみたいに笑い掛けられないから――




右京大総統は暫く基地にいるらしい。
いつもならばあっちこっちに動き回ってあまり基地にいないのに。
俺は基地にいない方が嬉しい。
名前も右京大総統のこと口に出したりしないし。

「翼、何食べる?」
「ぬ〜…俺はこれ」
「じゃあ私はこっちにしよ。あとで一口頂戴ね」

今日は仕事にも余裕があり、のんびり食堂で食事ができた。
いつも食堂で食事する時はそれぞれで違うものを選び、少し分けあうのだ。
自分達が何が好きで何が嫌いかわかっているから、相手が嫌いなものは絶対に選ばない。
まあ、嫌いなもの自体がすくないのだが。

「ん―…翼のやつ美味しい」
「そうか―?俺は名前の方が好きだぞ?」
「んじゃ交換しようよ」

名前が手を伸ばして俺のプレートと自分のプレートを交換して、それをつつき始めた。
あまり気にしてはいないが、これは間接キスになるのではないか。

「…間接キス…」
「ぶっ…」

俺がそう小さく呟くと、名前が食べていたものを吹き出した。

「名前〜汚いぞ―」
「翼が変なこと言うからじゃん!」
「本当のこと言っただけだろ!」

間接キスの何処が変なのだろうか。
今までずっとやってたけど気にしてなかっただけの話なのだが。

「も―いいわよ…」

名前はそう言うとプレートにのったものを口に詰め込んで立ち上がった。

「ごちそうさま」
「ぬわっ、待つのだ―!」

俺のプレートの上にはまだ半分以上残っている。
名前はスタスタと歩いて食器を片付けにいってしまった。
俺も急いで口に詰め込んだ。




俺が食べ終わった時には名前は既に食堂からいなくなっていた。
自室に帰っていなければ仕事場にもいなかった。
基地内を一通り回ったが、名前はいなかった。
何処かで入れ違いをしてしまったのだろうか。

「何処にいるんだぬ〜…」

きゅっきゅと靴の底のゴムがすれる音がただ廊下に響いていた。

「ぬ―…」

もう一度自室に行こうと思い歩き出した時、名前の声が聞こえた。
名前の声がする方へ俺は歩いて行った。




「好きです」

廊下に響いた名前の声。
その言葉が向けられた先にいるのは―――右京大総統だ。
俺は足を止めて、その場で立ちすくんだ。

「ずっと、好きだったんです…」

名前は小さい頃に親を殺され、俺の家族と一緒に生活していた。
ある日、名前が一人で出掛けた時に名前は襲われた。
その時だった…名前が右京大総統に出会ったのは。
名前はそれから体を鍛えて勉強をし、軍に入った。
昔から右京大総統の事が好きなのはわかっていたが、その現実は俺に重くのし掛かっていた。

「……」
「……」

右京大総統はだまったままで口を開こうとはしない。
俺は右京大総統が名前の思いを受け入れるわけがないのはわかっていた。
それなのになぜ黙っていてすぐに答えないのか。
俺はそれが許せなかった。
少しでも名前に期待を持たせるような行動が。

「…名前」
「…っ…」

右京大総統が名前のことを呟くように呼ぶと、名前の肩がぴくりと震え、顔を俯けた。

「…私は、君とは付き合えない」
「…はい」
「私は今の生活が気に入っているんだ」

右京大総統は子供をあやすように、傷つけないように話をしていく。
だが、俺にはそれがただ名前を傷つけているようにしか聞こえなかった。

「…だから、今の関係のままでいよう」
「…はい…」

右京大総統はそう言うと俺の方に歩いてきた。
俺に気付くと意地悪そうに微笑み、こう言い放った。

「天羽くんの最愛の子はどうやら私が好きなようだね…君は…どうするんだい?」
「っ……」

その場にいたくなかった。
俯いて肩を震わせている名前に近寄って手をとって歩き出した。
名前があの人を好きなのは知ってた。
知ってたんだ。

「っ…翼…」
「廊下なんかで泣くなよ…」
「わかってるよ…」

わかってるのならば泣くなよ。
女子が一人しかいないこの軍の中でどれだけの奴らがお名前を狙ってると思ってるんだ。
無言で廊下を進み、俺の部屋へ行く。

「…翼、私は部屋戻るから…」
「…いかせない」

部屋に入って名前をベッドに押し倒した。

「いっ…」

背中を打ちつけたためか、名前が小さく声を漏らした。
俺が名前に馬乗りになっているため、自然と上目使いになって俺を睨んだ。
俺に告白を聞かれていたことに対してなのか、今こうして俺に押し倒されているからなのか、名前の頬は赤く、俺を挑発しているようにしか見えなかった。

「つ、ばさ…」
「なあ、俺に―――」


俺に溺れて


書きたかった部分忘れたorz。

20121114

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