別れ

いつもいつも、彼が優先するのは私ではない。
彼女の私を放っておいて、後輩のあの子を助けるのだ。
今日もまた、私はひとり――




「お前、危ないから一人で出歩くなって言ってるだろ!!」
「す、すみません…」

私の目の前で繰り返される彼氏彼女のような会話。
いい加減月子ちゃんにも学習してほしい。
毎日毎日こんな会話を繰り返されれば、心の広い私でさえ苛ついてくる。
一樹の彼女は一体誰よ。

「…はぁ…」
「名前さん、溜め息を吐くと幸せが逃げますよ」
「颯斗くん…」

私に話し掛けてきたのはこの学園の副会長の颯斗くん。
この子は優しい。
一樹が暴走しそうになったら止めてくれるし、私の心配もしてくれる。
何より、颯斗くんの淹れる紅茶が美味しい。

「幸せねぇ…」
「ぬぬぬ、名前がいる―!今日はどうしたのだ?」
「う、わっ!!」

背後で声がしたと同時に身体に衝撃がきた。
後ろから押され、前のめりになる。
こんなことをするのは一人しかいない。

「翼くん…」
「名前!お茶いれて―!」
「私は嫌。颯斗くんが淹れてよ」
「僕ですか?」
「うん。颯斗くんの紅茶のみたい」
「…わかりました、淹れましょう」

颯斗くんは席を立って、給湯室に行った。
颯斗くんは本当に優しいなあ。
一樹なんかとは大違い。

「お前はまだ理解してないだろ」
「え!?そんなことないです!!わかってますよ!!」
「ならなんで今回一人だったんだ?」
「そ、それは……あれです」
「あれってどれだ」

未だに続く痴話喧嘩。
物凄く耳障り。
無意識に眉間に皺がよった。

「どうぞ」
「お、ありがと」
「どういたしまして」

いつの間にか颯斗くんが戻ってきていて、私の前にティーカップを置いた。
ティーカップの中には綺麗な透き通った赤茶色。
湯気と一緒に香りが上がってきて、生徒会室に紅茶の香りが漂う。

「ん―、相変わらず颯斗くんの淹れる紅茶おいしい」
「そうですか?」
「うん」
「ありがとうございます」

私にお礼を言ってにっこり微笑む颯斗くん。
その笑顔はどこかぎこちない笑顔だった。






気が付けば私の紅茶は飲み終わっていて、颯斗くんは机に向かっていて、翼くんはラボに籠っている。
会長と月子ちゃんも説教が終わったのか机に向かっていた。
仕事を邪魔するのも悪いかと思い、生徒会室を出ることにした。
横においてあった鞄を持って、立ち上がった。

「颯斗くん。紅茶、ごちそうさま」
「いえいえ。もう帰られるんですか?」
「うん。邪魔になるし、ね」

そう言って一樹の方をちら見した。
だが一樹は書類に顔を向けており、私の方を見なかった。
一言ぐらい言ったらどうなんだか。

「じゃあね」
「気を付けてくださいね」
「うん」

これじゃ颯斗くんが彼氏だ。
なんてことを思いながら、生徒会室を後にした。




彼から連絡が来なくなったのはいつからだろうか。
最初は生徒会が忙しいからと我慢していた。
だけど、もう無理だ。




「名前―」
「…なんだ、一樹か」
「なんだとはなんだ。お前の彼氏だぞ」

彼氏。
その言葉だけが頭の中に残ってぐるぐると回る。
彼氏ってなんなんだろうか。
彼氏って、彼のことなのだろうか。

「ねぇ、かず…」
「あ、一樹会長と名前先輩!」
「お、月子か。どうしたんだ?」
「私は通りかかっただけですよ。一樹会長達は?」

また、目の前で繰り広げられる二人の会話。
胸の辺りが小さく痛んだ。

一樹の目が、私と話しているときとは全然違う。
優しい目で、彼女を見ていた。
これじゃあまるで、私が邪魔者みたい。
王子様とお姫様は一樹と月子ちゃんで、二人の仲を引き裂く魔女が私、だ。

「…って、お前また一人で出歩いてたのか!」
「なんでそれに気づいちゃうんですか…」
「お前幼馴染みがいるんだから一緒に行動すればいいだろう」
「一人になる時間だって大切です」

本当に、一樹の彼女は私?
月子ちゃんの間違いじゃなくて?

ただ、問題だけが降り積もって答えがない。
誰も、私の質問に答えてくれない。
だから、もうやめにしよう。
この有耶無耶な関係を。

「生徒会室にいくんだろ?俺も行くから一緒に行く」
「え―、一樹会長とですか」
「俺じゃ不満か」
「……」

私が歩みを止めたことに気付かないで前に進んでいく二人。
胸の痛みは増してくばかり。

長い間忘れていた涙が、頬を滑り落ちた。

「さようなら…」

小さくそう一樹の背中に呟いて、二人とは反対の方向に私は歩き出した。



訣別


最初の部分をかなり前にかいて放置したのを書き足してできたものなので最初と最後で違う感じになりましたorz
それと、ぬいぬいがぬいぬいじゃなくなりました。
落ちは気に入ってるが不完全燃焼。

20120730

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