世界が色付く

「東月先輩と月子先輩付き合い始めたんだってね」
「え…」

今は昼休みで、梓と教室で弁当を食べていた。
梓が突然言うものだから、箸で掴んでいた唐揚げを弁当箱の中に落とした。

「…マジで?」
「うん。月子先輩から聞いた」
「そ、う…」

突然突きつけられた現実に、私の胸の辺りが急速に冷めていった。

私は、東月先輩が好きだ。
一目惚れ、というわけではない。
迷子になっていたところをたまたま通り掛かった東月先輩に助けてもらった。
その一件から仲良くするようになり、段々東月先輩を好きになったんだ。

「……」
「…名前、東月先輩のこと好きだったもんね」
「…好きじゃないし」

私がそう言うと、すなおになればいいのに、っと言って梓はため息を吐いた。
素直になるってなんなの。
今更、素直になったって遅いんじゃないか。
だってもう、東月先輩と月子先輩は付き合ってるんでしょう?




「……」

午後の授業は出る気になれず、屋上庭園にいた。
私がいるのは、階段の所の屋根の上。
ここなら誰にもバレないはず。

「…はぁ…」

することもなく、大の字になって寝転がった。
空は私の心と違い、綺麗な蒼色ををしていた。
私の心は嫉妬でどす黒く濁っているのだ。
醜い。
ああ、きっと月子先輩はこの蒼空のような綺麗な色の心をしてるんだろうな。
私とは違う、綺麗な色を。
だから、東月先輩と付き合ってるんだ。

「…っ…」

段々悲しくなって、涙が出てきた。
視界が歪み、回りがうまく見えない。

泣いたら段々眠くなってきて、瞼を開けるのが億劫になってきた。

「世界なんて、終わればいいのに…」

そう呟いたのが最後、私の意識は黒い闇へと落ちていった。




「…ん…」

日差しが眩しくなって目を開けた。
もう太陽は沈みそうになっていて、陽光が明るくなっていた。

「……」

むくり、と体を起こすと、身体に何か掛かっていたようで、ぱさりと落ちた。

「…え…」

私に掛かっていたのは、男子の制服のブレザー。
内側の名前を書いてあるとこを探して見た。

「……!」

そこに書いてあったのは、


東月 錫也


と、綺麗な字で書いてあった。
その名前を見て、私の心は舞い上がってしまう。
ブレザーを大切に抱き締めて、顔を埋めた。
ブレザーから、甘い、いい匂いがした。

「っ…と、づきせん、ぱい…」
「うん、何?」
「…………」

背後から聞き慣れた声がして、振り向いた。
そこにいたのは、やはり東月先輩で、私の頭はパンクし始めた。

「な、ななな、なっでっこ…!?」
「…うん。何て言いたいのかはわかったよ」

寝転がっていた東月先輩は起き上がって、私の横に座った。

「……」
「……」

私はうまく話せなくて沈黙。
東月先輩は、夕陽をみていた。
その横顔は何処か悲し気で、胸が締め付けられた。

「……、」

今やっと思い出したのだが、東月先輩のブレザーを抱き締めたままだった。

「…東月、先輩」
「…何?」
「あの、ブレザーありがとうございました」
「…どういたしまして」

抱き締めていたブレザーを離して、東月先輩に渡した。
東月先輩は渡したブレザーに袖を通す。
目の前で東月先輩のブレザー抱き締めてたの見られてたなんて恥ずかしい。

「…東月先輩、月子先輩と付き合い始めたんですよね」
「え」
「おめでとう、御座います」

私は東月先輩に笑ってみせた。
うまく笑えたかなんてわからない。
ただ、笑わなきゃ、笑ってこの気持ちにさよならしなきゃ、そうしなきゃ駄目なんだ。
自分がこの気持ちに押し潰されてしまいそうで。

「…あのさ、俺は月子と付き合ってないよ?」
「……はい?」
「だから、俺は月子と付き合ってないよ」

え、まじで。
どういうことなの。
梓の言っていたことは嘘だったの?

「そうなんですか…」

東月先輩の言葉にホッとして、涙腺が緩んできた。
いったいどうしたのだろうか私の涙腺は。
いつもなら泣かないのに。
目から出た滴は私の頬を滑り落ちる。

「…っ、…ふっ…う…」

私の横にいる東月先輩は目を見開いて私を見ている。
泣き止めよ、私。

「…なあ、何で泣いてるんだ?」

東月先輩は、そう言って私の頬に手を出して涙を拭う。

「っ…わ、わた、し…東月先輩のこと、が…」
「好き?」
「………です…」

私が言おうとしていた言葉は、東月先輩に言われた。
段々羞恥心が込み上げてきて、東月先輩の顔が見れずに俯いた。

「……」
「俺も、好きだよ。名字のこと」
「えっ」

予想をしていなかった言葉に、下を向いていた顔を上げた。
顔を上げたのと同時に唇に柔らかな感覚。
そして、東月先輩の整った顔がアップで目に映る。
海のような蒼い瞳に吸い込まれそうになる。

「なっきききききっ…!」
「うんキスした」
「なっどっし!?」

何で、どうしてしたの、って聞きたかったけど思考回路は完全にショートしていて、正常に動かない。
焦っている私とは裏腹に、東月先輩は私の問いに冷静にさらりと答えた。

「キスしたかったから。駄目か?」
「だ、駄目……じゃない…です、けど…」

また、私は俯いてしまう。
恥ずかしくて東月先輩の顔が見れない。

「両思い、ってことでいいんだよな?」
「…ソ、ソウ、デスネ…」

改めてそう言われると、とても恥ずかしい。
顔が熱を持ち始める。

「…林檎みたいだな」
「…ぶへっ」

俯いていたら、東月先輩に頬をつねられた。

「なにしゅるんれすか」
「ふふ、可愛い」
「っ…」
「もっと赤くなったな」

駄目だ。
私、想像以上に東月先輩のことが好きみたい。






「東月先輩は、…」
「錫也」
「えっ」
「錫也って呼んで」
「いや、そんな呼べなっ」
「俺は名前って呼ぶから。言えなかったら、お仕置き」
「あ、え、名前っ…じゃなくて、お仕置き!?」
「な?早く」
「え、っと…すっ……ず、や…先輩…」
「不合格」
「!」

キスされた。




1ヶ月ぐらい前に書いたのを微妙に手直ししてup。
錫也くんってこんなだったかな…?

20120803

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