世界が終わる音がした

最後の最後の続き




名前の身体がゆっくりと傾いて地面へと落ちていく。
手を伸ばしてもまったく届かない。
名前が初めて見せた涙は、とても綺麗で、哀しかった────




名前と俺は、星月学園に入学してから出会った。
最初から好きという感情があった訳ではない。
一緒に過ごしていくうちに、段々好きになっていった。
俺から告白して、OKをもらった。
確かにあの時は幸せだった。

俺と付き合い始めた頃から、名前のよくない噂がたち始めた。
三ヶ月たった時は、名前が月子をいじめているという噂。
でも、名前はいじめなんてする奴じゃない。
それは俺が一番わかっていた。
その頃から段々名前の顔からは笑顔が消えていった。
しまいには殆んど笑わなくなり、笑っても何処か影があるのだ。
理由を聞いたけど何も答えてくれなかった。
ただ、苦笑いするだけで。

そんなある日、名前と月子がいなくなった。
俺と哉太で手分けして探していたが、中々見つからない。
屋上庭園にでもいるかな、と考えて屋上庭園に向かった。



「――!!―!」

階段を登っている所で、名前と月子が争っているような声がした。
急いで階段を上がり、扉を開けた。
そこでは名前と月子が自分達の制服を掴み合い、取っ組み合いをしていた。

「なんであんたに…!!っ錫也」
「えっ…すず、や…?」

いち早く気が付いた月子は俺に向かって走ってきて背後に隠れた。

「そうやって錫也を味方に着けるの?考えが最低だね」
「あんたが先にやったのよ」

あんなに仲の良かった二人が、喧嘩をしていた。
今までこんなことはない。

その時、ふとあの時の噂が頭に浮かんだ。

「…まさか、な…」
「錫也、アイツがね、いじめるの!」
「はぁ?ふざけたこと言わないでよ!?」

月子が言ったことに声を上げる名前。
俺は名前を信じたい。
噂なんて信じたくない。

「名前、月子をいじめてるなんて嘘、だよな?」
「…錫也、まで…私を疑うの…?」

名前の声が微かに震える。
身体の横にある小さな手も、震えていた。
目には涙の薄い膜が張っていて、今にも泣き出しそうだった。

「違う!俺は、真実をしりたいだけで…」
「…もういいよ…。結局、錫也の一番は月子なんだよね…。もう、別れよう。もう終わり」

一瞬、名前がなんて言ったかわからなかった。
頭がその言葉を拒絶しているようで、頭がうまく回らない。

「え…」
「今までごめんね、ありがとう。…さようなら」

名前がそう言って俺の横をすり抜けていく。
手を伸ばしたかった。
でも、身体が金縛りにあったように動かない。

名前が行ってしまったあと、月子がなんか言っていたが、何にも頭に入らなかった。




その日から、名前は俺を避け始めた。
名前俺と別れたという話が学園中に回ってからは名前の悪い噂は増えていく一方。
名前と話したいのに、気が付けば名前は何処かに消えていた。

「……」
「錫也?どうしたの?」
「…なんでもないよ」

月子は多分気が付いている。
俺が何を気にしているか。

この頃、月子と一緒にいていいのかと考えてしまう。
俺は、好きな人を裏切って笑って過ごしてていいものなのか。
俺は、月子のことが大切だ。
昔から守りたい女の子だった。
だけど今は?
今、守りたい人は――




夜、名前と話をしようと職員寮に向かった。
名前の部屋の前について、ドアをノックした。
だけど、反応がなかった。

「名前?」

声をかけるが返事はない。
俺が来たからって避けるような奴じゃなかったから不審に思い、ドアノブに手を掛けた。
ガチャっとおとがして、扉は開いた。

「…名前…?」

鍵をかけ忘れることなんて名前はしなかった。
不安が胸の中を染めていく。

「名前!」

中に入って名前を探す。
寝室に、名前は倒れていた―――――血を、流して。

「名前、名前!!」

名前に駆け寄って、肩を揺らすが、先程と同じで返答なんて返ってきやしない。
俺に名前を助けることなんてできないから、星月先生に電話をした。
電話をすると、直ぐにいくと言って電話をきられた。
星月先生が来るまでに、取り敢えず止血しようと思い、リストカットされた名前の手首に近くにあったタオルを押さえ付けた。




星月先生が来て名前を見ると、俺の手に負えないから病院に連れていく、と言った。
山の上にあるこの学園からじゃ、救急車を呼んで待つより車で病院に行った方が速い。
だから星月先生は自分で連れていくとといい、担任の陽日先生にこの事を電話で告げ、名前を抱き上げた。

「俺も、連れてってください」
「駄目だ。寮に戻れ」
「なんでですか!?」

星月先生は答えない。
俺が折れるのを待っているようだった。

「俺は行きます」
「…この状況を作った原因は少なくともお前にもあるんじゃないのか?コイツを信じなかったお前が着いてきても邪魔なだけだ」

星月先生が言った言葉に、俺は固まってしまう。
確かにそうだ。
俺は、名前を信じなかった。
だから今、俺はここにいるんだ。
名前を星月先生が連れていくのを、ただ見ていることしかできなかった。




次の日、陽日先生に名前のことを聞いたら、眠ったままだと言った。
俺は、名前に会いに行きたいと言ったが、目覚めても会わせられないと言った。
理由は、星月先生に聞けと言う。
あの人に、理由を聞きに行くまででもなかった。
昨日言われた事とどうせ同じことを言われるだろうから。
星月先生は名前を、大切な生徒だけではないような視線でいつも見ていた。
名前に昔教えてもらったけど、星月先生とは昔馴染みらしい。
少し名前を特別視しているような気がしていたが、やはりそうみたいだ。



名前が自殺未遂を起こしてから一週間たつが、なにも聞かされていない。
俺もまだ悩むことがあり、屋上庭園にきていた。

「…はあ…」
「錫也、溜め息吐くなんてらしくないんじゃねーの」
「哉太…」

哉太に話し掛けられ、哉太の方へと身体を向ける。
哉太は、暗い顔をして俯いていた。

「どうしたんだ?お前こそらしくないぞ」
「実は、な…」

哉太は、ゆっくりと喋り始めた。
名前が自殺未遂を起こしたことを陽日先生から聞かされて、今まで名前を敵視していたのは間違いなんじゃないかって思い始めたことを聞かされた。

「…名前は、月子をいじめるような奴じゃない」
「わかってる。わかってたんだよ、アイツがいい奴なことはさ。だけど、…」

そう、名前との関係が狂い始めたのは、月子がいじめられてるといい始めたことから。
月子は、自分からいじめられてると言うような奴じゃなかった。
むしろ、黙っていて名前を庇っただろう。
哉太も月子の変化に気付いてはいたのだろうけど、昔から一緒にいた月子を信じたかったんだ。

「また、一緒にいられるか…?」
「俺達、次第だろうな…」
「そう、だな…」

哉太はそう呟いて、室内へと消えていった。
一人残された俺は、空を見上げた。
今、見ている空は綺麗な蒼いろなんてしちゃいない。
灰色だ。
名前が隣にいなくなってからは、世界に色がなくなった。
全てがモノクロで、面白味のない毎日だ。
早く、早く名前に会って謝らなきゃいけないのに、会えない。
名前はそんな遠くにいないのに会えなくて、もどかしさだけが俺の心の中に残っていた――




哉太に相談されてから二週間程がたったある日、名前が学校に登校していた。
教室に入る前にそれに気付き、扉の前で教室内の様子を伺った。

「あ、藍ちゃん!!」

笑顔で話し掛ける月子だったけど、名前はそれを無視して自分の席へと座った。
教室内にいたクラスメイト達は、先程のざわめきを越える声で喋りだす。

「おいおい名字さんよお。マドンナが話し掛けてるのにそれはないんじゃないか?」

ある一人が、名前にちんぴらのように話し掛けるがそれをも無視した。
名前が無視したことが気に食わなかったのか、名前に近付いてこの前切った傷がある左手首を捻り上げた。

「いっ…」
「なんだ、人並みに痛いなんて感情があるのか。こんな痛みより痛い思いをしてるのは夜久さんなんだよ」

流石にその行動を放っておけず、急いで教室内へと入る。

「お前がいるとさ、教室の空気悪くなるんだよ」
「っ……はな、せっ……」
「だからさあ、…」
「何してるんだ」

いつもより低く、ドスのきいた声で言う。
クラスメイトは小さくびくりと肩を揺らしたが、名前の手を離す気は無いらしく、力強く掴んだままだ。

「東月か…。コイツが夜久さんを無視するからだよ」
「そんなことはいいから手を離して」
「なんでだよ!コイツがわる」
「いいから離せよ」
「…つ…」

クラスメイトの言い訳を聞くのがめんどくさくなって、先程より低い声で言ったら、名前の手をあっさり離した。

「っ……」
「大丈夫か?痛かっただろ?」

そう言いながら差し出した手は、ぱしんと弾かれた。

「結構よ。一応礼だけは言っておくわ」

月子が大丈夫?、って聞いてきたけど、手を叩かれたぐらいじゃなんともない。
名前があじわってる痛みに比べたら。

「君さあ、いい加減にしなよ」
「誰?」
「君に名乗る必要はないよ」

今度は、転入してきたばかりの土萌くんが名前につっかかってきた。
君達は俺に名前と話す時間をくれないのか…。

「君が月子を虐めてたんだって?」
「だから?」
「自分勝手に人を虐めるのを最低だと思わないの?」
「別に」
「君に月子は虐めさせないよ」
「あっそ」

名前は適当にあしらってるけど、土萌くんは引く気はないみたいだ。
でも、やっぱり名前の適当な回答が気に食わないみたいで、眉間に皺を寄せた。

「君、死んじゃえばよかったのにね」
「…っ…」
「自殺したいのは君じゃなくて月子の方だよ」
「土萌くん、やめろ」
「なんでさ、。コイツが悪いじゃないか」

土萌くんの言ってることは月子を守ろうとして言っていることだけど、俺は名前の味方をすると決めた。
だから、名前を守る。

「…あ…に…」
「なに?聞こえないし」
「あんたに私の何がわかるのよ!私のことを何も知らないくせに!好き勝手に言わないで!」

名前が土萌くんのネクタイを掴み、無理矢理引っ張った。
土萌くんは前のめりになって倒れかけたが、体制を立て直した。

「月子が守りたいならコイツから目を離さなきゃいいでしょ!!」
「…っはなせよ…!!」
「あんたが先に突っ掛かって来たんだろ!!」
「お前が悪いじゃないか!!」

今にも取っ組み合いを始めそうな二人を見て、流石に不味いと思って静止をかける。

「名前!離せ」
「っ……」

名前の腕を背後から掴んで、土萌くんから離れさせた。

「なんで…」

名前は肩で息をしていて、今にも泣き出しそうな声をだす。

「名前、落ち着きなよ」

今、こんなことを言っても逆効果かもしれないけど、落ち着いてもらわないと。

「……っ」
「…うわっ…」

名前が身体を捩り、俺の腕から抜け出した。
止まることはなく、そのまま教室から出て何処かへと行ってしまう。
追いかけたかった。
だけど、月子が俺のことを引き留めているうち陽日先生が来てしまい、SHRが始まってしまった。

「あれ?名字は何処いった?」
「知らないよあんな奴っ」

土萌くんの答えが気にくわかなかったのか、陽日先生はぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。
早く終わらないかな、と思いながら、空を見上げた時、視界に名前が映った。
ガタン、と音をたてて席を立ち上がった。
いっきに静かになった教室に東月…?って、どうしたんだいったいって陽日先生の声が聞こえた。
だけど、冷静にそんなことを聞いてる場合じゃなかった。
名前がいる場所に向かうため、全速力で走り出した。
月子が錫也って名前を呼んだけど、そんなの無視した。
だって、名前が屋上の塀の上に立っていたから。




柄にもなく本気で走り、階段を二段階跳ばして上がっていく。
息が辛くなったって関係ないない。
今はただ、名前のところにいくのが先だ。


屋上へと続く階段を上りきり、閉じられた扉を荒々しく開けた。
バンっと扉が壁に叩きつけられる音がして、名前がゆっくりこっちに振り返った。

「……」
「名前っ…」

全速力で走ってきた身体が悲鳴をあげる。
名前のとこに早く行きたいのに、ゆっくり歩くことしかできなかった。

「ねぇ、錫也。最初から、こうすればよかったんだよね」

久し振りに名前を呼ばれ、身体が動かなくなる。
名前は、微笑みながら――――――――涙を流していた。

「名前!!」

名前の身体がゆっくりと傾いていった。
名前を叫んで呼びながら手を伸ばしたが、届くことなんてなくて、視界から名前が消えた。

「……名前、…」

足に力が入らなくて、ぺたりとその場に座り込んだ。

なンで、名前が、自殺すル?
俺ノ、セい?
名前をしンじなかっタ俺ノ?




その後何があったかなんて覚えていない。
気が付けば、名前が眠る病室に俺はいた。

「…名前、…」

彼女は、一命を取りとめた。
だけど、眠ったままだ。
まだ、危ない状態だという。
名前が落ちた下は木があって、それがクッションになったからあまり外傷はなかったが、頭を打ち付けたようで、障害が残るかもしれないという。

「名前、名前名前名前…!」

いくら呼び掛けても、返ってくるのは沈黙だけで、寂しさだけが心に降り募った。




名前が昏睡状態に陥ってから早1ヶ月がたつ。
俺は名前の元へと毎日通った。
名前が目が覚めて直ぐ、謝れるように。
ごめん、て。

「…名前…」

名前のベッドの横に立ち、名前の手をぎゅっと握った。
何時もなら、なにも反応はなく、ただ俺が握り締めてるだけなのに、今日は違った。

「名前…?」

微かに、俺の手を握り返したような気がした。
名前を何度も呼んで、名前が目を開けるのを待つ。

「名前、…名前…っ」

名前の長い睫毛が小さく震え、瞼が上に上げられた。
ぼーっと上を見ていた名前に、もう一度名前を呼んだ。
すると、名前はこう言った。

「あなた、だれ…?」




これは、罰だ。
俺が名前を信じなかった、罰。



無駄に長くてぐだぐだですね テヘ
続き書くか迷うこの自殺の話。

20120816

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