忘れるための恋だったのに

俺は、月子が好きだ。
だがそれが恋愛としてなのか、友情としてなのかわからない。
少し前までは、恋愛だったはずなのに――




「錫也くん?」
「ん、なんだ?」

名前は俺の彼女だ。
俺が月子を好きでもいいから付き合ってと言われ、月子へのこの感情を忘れるために付き合い始めた。
今俺が名前をどう思っているのかと聞かれたら、曖昧にしか答えることができないだろう。

「あの、さ…」
「うん?」
「自分から言い始めたので悪いんだけど、…別れて、ほしい」
「え…?」

思考回路がショートしたように働かない。
頭が、名前が言ったことを拒絶しているようだった。

「なん、で…?」
「正直言うと、辛くなった…月子を好きな錫也くんといるの…だから…」
「……」

言葉をうまく発せられない。
呼吸もうまくできない。
ただ、名前を見つめることしかできない。
名前は、手を握って俯いた。

「…ごめん…私が、言い始めたのに…」


名前の小さな手は震えていた。
今、名前に辛い思いをさせているのは俺だ。
俺も、きちんと答えを出さなくちゃいけないんだ。
前と今の気持ちの違いを。

「…俺、は…」
「…ごめんっ」

名前は俺の言葉を遮って教室から出て行こうとする。
名前が顔を上げて見えた、一筋の涙。
その涙を見て、俺はやっと気が付いた。
今、俺は誰が好きなのか。
いうこと効かなかった身体が動いて、名前の小さな身体を後ろから抱き締めた。

「…ごめん…」
「錫也くん、は、…悪くない…だから、離して」
「ごめん、無理。離せない…俺は名前が好きだから」
「…………え…?」

名前が素頓狂な声をあげる。
そりゃあそうだよな、自分以外を好きだと思ってた奴が告白してるんだから。

「だから、俺は別れたくない」
「す、錫也くんは、月子が好きなんでしょ?」
「あのなあ…俺は、名前が好きって言ったよな?」
「そう、です…」

段々と名前の頬が赤くなってく。
俺の告白で零れる涙は引っ込んだけどまだ涙の薄い膜がはっている。

「じゃあ、これからも、付き合ってていいの…?」
「もちろん」
「…ふっ…ひっ…ふえぇ…」
「泣くなよ…よしよし」

頭を撫でると、名前が抱きついてきた。
今まで抱きつくとか、恋人らしいことはしなかったから胸が暖かくなる。

「ごめん、な」
「…錫也くんが、好きっていってくれたから許す…」

そう言って俺の胸に顔を埋める名前がいとおしくて、小さくおでこにキスをした。



れるためのへと


title by 確かにだった

20120725
20120808 修正

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