嫌い 「嫌い!大嫌い!近寄らないで!」 私は、大好きな人にそう叫んだ。 なんで好きな人に嫌いなんて言うか? それはね、今日が四月一日、エイプリルフールだからです!! 「……う、嘘、だよな…?」 「本当だよ。近寄らないで」 私の好きな人は、東月錫也くん。 オカンだけど男前です。 かっこいいです。 今日だけ嘘つくのを許してね。 「いや、嘘だ」 「は…?」 え、エイプリルフールってばれた? 月子ちゃんに聞いたらエイプリルフールで嘘つくとかやったことない言ってたし、錫也くん忘れてるはず。 「名前、嘘だよな?俺のこと嫌いなんて、嘘だろ?」 「え、いや、あな…」 エイプリルフールだとは気づいてないみたい。 いや、あの、お願いだから揺さぶらないで。 胃の内容物が、で、出る…! 「嘘じやなかったら、俺、…」 「あ、あのね、今日エイプリルフールだから、嘘だから…」 「…嘘…?」 いい加減回りの視線が痛いんです。 ここ職員棟前なんだよ。 とても視線が刺さってるの。 だからはやく、正気に戻って。 「嘘だから、う、そ!!」 「…よかった…」 錫也くんはやっと嘘だってわかったみたいで、私を揺さぶるのをやめ、抱き締めた。 「え、ちょ、す、ずや、くん…?」 「俺、名前に嫌われたら、…生きていけない」 生きていけないは流石に言い過ぎじゃないかな。 私なんて月子ちゃんみたいにスタイルよくないしブスだし。 「あの、ごめんね…?」 「嘘だったからいいかな」 よかった、なんか錫也くんが焦ってたから怒るかと思った。 よかったよかっ……。 「あの…錫也、くん…?」 「でもな、嫌いっていう嘘はいただけないな」 段々錫也くんの背後に黒い影が。 笑顔もなんか、怖い。 「ごめん、ごめんなさい…!」 「春休みだからたっぷり時間はあるし…な?」 「なってなにが、え、ひっぱ、そっち職員寮!!」 ん?、って言って綺麗な笑みを向けてくる錫也くん。 笑顔だけはきらきらしていた。 笑顔、だけは。 背後に黒い影は変わらない。 「これから教えてやるからな」 「な、何を…!!」 「イケないこと」 「い…!?」 その後、錫也くんに笑顔で私の部屋まで引き摺られました。 それからは、ご想像にお任せします。 嫌い 次の日、やけに肌が綺麗な錫也と、げっそりした名前を月子と哉太が発見した。 (もう嫌いなんて言わない) 20120721 |