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錫也くんの短いお話↓
俺には好きな人がいる。
だけど俺の気持ちは伝えていない。
伝えたいと思ったことはあるが、今の関係を壊したくなかった。
“幼馴染み”という関係でいたかった。
近くにいて、手を伸ばせば届く距離にいるから。
気持ちを伝えて断られたら、側にいられない。
手を伸ばして届く距離からいなくなってしまうから。
だから気持ちを伝えず、この“幼馴染み”という関係でいようと思っていた。
なのにあいつは俺以外の男に笑いかけたり頬を赤く染めたりして警戒心が無さすぎる。
「いつも警戒心を持てって言ってるよな?」
「つっこちゃんならまだしも私だよ?ないわ」
男子校に近いこの学園の中庭で堂々と寝れるのはどうなのだろうか。
好きな人が他の男に寝顔を見せるなんていただけない。
「女なら誰でもいいって奴もいるんだ」
「…私可愛くないってこと?」
「なんでそうなるんだ…」
こいつの思考回路はいったいどうなっているんだろうか。
小さい頃から一緒にいるが全くわからない。
「錫也って案外ひどい…」
「…可愛いよ」
「………はい?」
「だから、可愛い」
「お、お世辞言っても嬉しくないよ!!」
顔を真っ赤に染めて可愛い。
柔らかそうな赤い頬をつつきたくなって手を伸ばしてつつく。
「うわっなにするの!」
「ん?柔らかそうだなあって」
「…それは太ってると…あ、羊くんだ。羊くーん」
窓の外から羊が見えて、窓に近寄って手を振る。
俺に見せる顔じゃない。
優しい、笑顔。
「っ……」
つきん、と胸が痛んで胸の辺りを押さえ付ける。
無言になった俺を心配してなのか、振り向いて心配そうな顔をして近付いてくる。
「大丈夫?」
「大丈夫、だ」
「本当に?」
「本当」
「ならいいんだけど…羊くんが呼んでるから、一緒に行こ」
そう言って教室から出ていこうとするあいつの手を掴んだ。
振り向いて心配そうな顔をするあいつに胸が痛む。
「錫也…?」
「……」
「羊くん、呼んでるよ?」
そんなことわかってる。
でも今は、行かせたくない。
俺は、……。
「俺、お前のこと――」
密閉空間からの脱出
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