Conversation sentence

愛と言葉@錫也

昔から歌うのが好きだった。
誰かに聞かせるためとかではなく、純粋に歌うのが好きだった。
親は私が歌うと喜んでくれて、それが私は嬉しかった。
家にいる時は四六時中歌っていたが、学校にいる時はそうはいかない。
しかし、歌わずに生活など私にはできなくて、小さい声で歌っていた。
それがクラスメイトに聞かれ、最初はこう言われた。

「上手だね!」

幼かった私は調子にのり、人前だということを気にせず歌うようになった。
しかし段々クラスメイト達は私から離れていき、私は孤立した。
そして、いじめるやつも現れたが、私は直ぐに親の転勤で引っ越した。
それからは、極力人前では歌はないようにして、家で一人で歌っていた。

高校に入る時だ。
最初は家から通える高校に入る予定だったのだが、親が海外に転勤することになり、私は全寮制の高校に入ることになった。
上がった候補の中から自分の学力にあった高校を選んだ結果、星月学園に通うことになった。
入試の時私はインフルエンザで出ることができず、別の日に受けることになった。
だから、私は気が付かなかった。
この学園が男ばかりだと言うことに…。
入学式の日、私は憂鬱で仕方なかった。
回りは男だらけで好奇の目でみられている。

「…はあ…」

私が溜め息を吐いたとき、背後で可愛い声がした。
男の声じゃなくて、可愛い女の子の声。
後ろを振り向くと、男二人に守られながら歩いてくる女の子がいた。
夜久月子、それが彼女の名前だった。
私は月子と一緒に歩いていた東月に、一目惚れをした。

東月達とは運命なのかなんなのかはわからないが同じクラスだった。
東月とは奇跡的に隣の席で、私は一人歓喜していた。

「よろしくね」
「こちらこそよろしく、東月くん」

月子と私が仲良くなるのにそう時間はかからなく、必然的に東月とも一緒にいるようになった。
月子にクッキーを作ったりする東月くんは、私にも一緒にクッキーとかをくれた。
一番最初、東月くんは月子のことを好きなんだと、私は勝手に思っていた。
だけどそれは違った。
私が月子にお呼ばれして弓道部へお邪魔した時、一緒に東月といった。
そして、私は知った。
東月が誰を好きなのかを。

私はこの人に勝てないと思った。
好きな人と話す東月がとても嬉しそうで、私は胸が痛くなった。
体調が悪いと言って私は寮に帰り、一人で泣いた。
ただただ泣くことしかできなかった。

昔に何処かで聞いた話だと、男が男を好きになるのは、子孫を残そうという人間の本能を抜いて好きになるから、本当にその人のことが好きなんだと。
それを思い出して、本当に勝ち目がないと思った。
私は次の日学校にはいったが、屋上庭園でサボりをした。
悲しくて、それを紛らわせるために歌った。
ベンチに横になり小さな声で、誰にも聞かれぬよう。
だけど、私はまたやってしまった。
かつん、と、石が転がる音がして私は歌うのをやめてバッと起き上がった。
そこにいたのは、東月だった。

「と、づき…」
「ごめん、聞くつもりじゃなかったんだけど…あまりに綺麗でさ」

彼はそう言ってふわりと笑い、こう言った。

「もう少し、聞かせてくれない?」

私は、東月のために歌った。
小さな、小さな恋の歌。
きっと東月はあの人のことを考えている。
わかるんだ。
横顔を見ると、何を考えているのかが。

私が歌い終わる頃に、丁度授業は終わりを告げた。
東月はありがとう、と言ってまたふわりと笑った。
それだけで私の胸は暖かくなる。
そろそろ冬に入ろうというのだけれど、心は暖かくなった。

「お前なら、きっと売れるよな」
「えっ!?そんなことないよ…」

東月の言葉は嬉しかった。
だけど、昔を思い出してしまうんだ。
また、私は一人になってしまう。
私は、それをもう二度と繰り返したくなかったから。

「…私はもう、歌わないよ」
「…なんでだ?」
「趣味なだけで上手じゃないし…それに―――」

私が言った言葉は、強く吹いた風によって聞こえなかっただろう。
それでいいんだ、それで。
私の思いは箱に入れて、鍵を閉めて奥底にしまえばいいから。

「…残念、だな…。俺はお前の歌好きだけど」

そんな、本当に残念そうな顔しないで。
私が、泣きたくなる。

「…じゃあ、東月のために歌うよ」
「…本当か?」
「うん」

私がそう言うと、東月がまたふわりと笑った。
私は、東月が聞きたいという時に歌を歌い続けた。

卒業間際に、あるオーディションを受けたらそれに合格してしまい、デビューすることになった。
それを東月はとても喜んだ。
オーディションを受けろと言ったのは東月だったから、私は東月に心からお礼を言った。

「これからは、みんなのために歌うんだな」

東月がそう言ったけど、私は頷かなかった。
私はみんなのためになんて歌わない。
私はたった一人、東月の為だけに今も昔も歌い続けてる。
私の歌は、彼への愛だ。



下の話に続いてる感じ。
繋げて短編にあげてもいいかなぁ。

Title by 自
Thu 23:37:36
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