道化師は笑う


―シキ・双子if story―



ドライバーやスパナなどの工具、ネジやコードといった機器の部品、作りかけの人型アンドロイドがあちこちに散らばるその部屋は、とある若いメカニックが一人で占領していた。


「シキにーちゃーん」

「また人形壊れたー」


カタカタとキーボードに指を走らせていれば、部屋に入ってきたのは幼い双子。
その小さな手には、ボロボロとなった旧式の戦闘用アンドロイドがあった。


「……君たちさぁ、いつも言ってるけど…壊れたんじゃなく壊したんだろ」

「「えへへっ☆」」

「笑って誤魔化してもダメだよ、この戦闘狂共。」


ガシャンッと作業台に乗せられたアンドロイドの無残な姿を見てみれば、もう溜息しか出なかった。
国で起用されている戦闘レベルの三倍強になるようカスタマイズしたというのに、三日も保たずに十代そこそこな子供に破壊されるなんてね。


「君たちが特殊なのは知ってるけど、ほんの暇潰しでアンドロイドを何機壊せば気が済むんだい」

「そーいうなら、もっとハイスヘックなの作ってよー!」

「シキにーちゃんはいっぱい強い人形持ってるでしょー?」

「僕が作ってるのは実戦メインだよ。少なくとも子供の暇潰し用じゃない」


もっとも、この壊れたアンドロイドだって子供の暇潰し用なんかじゃない。
しかし、こうも頻繁に部屋に来られては作業が進まないのは確かだ。
この際、日持ちさせるために双子の飼い主であるゼロの戦闘データでも組み込んでやろうかな。


「……シキにーちゃーん」

「お顔が悪人になってるよー?」

「酷い言われようだねぇ」


人が折角とっておきの暇潰しを用意してあげようとしてるのに、悪人顔とは心外だ。
子供ならもっと可愛くあってほしいよ。


「ところでさぁー…」

「んー?」

「シキにーちゃんの人形はどうして…―――」



「「国で使っているものと同じなのー?」」

「……ああ、そんなことか」


新しい旧式のアンドロイドを用意していたが、ふと双子が問い掛けてきた疑問に手を止めた。
僕の作るアンドロイドと、国で使用されているアンドロイドは見た目だけなら確かに同型だ。
スペックの差はあれど、似ているのには当然な理由がある。


「国で使っている旧式、新式アンドロイドの試作品を提供したのが、僕だからだよ。」


ちらり、と双子を見やれば珍しく驚きで目を見開いていて。
それにクスリと小さく笑うと止めていた手を再び動かし始める。


「……シキにーちゃんは、ヒボシにーちゃんたちの仲間じゃないの?」

「まさか。利害が一致しているだけで仲間になった覚えはないよ」

「じゃあ、シキにーちゃんの目的ってなんなのー?」


目的、ねぇ。
しいて言うなら、やっぱり…――


「この革命の行く末と、国が辿る結末、かな」


この革命が成功しようが失敗しようが僕にはどうでもいいし、国が栄えようが崩壊しようが関係ない。
大事なのは、僕が愉しめるかどうか、なのさ。


「わー…さすが快楽主義者ー!」

「敵も味方もないねー!」


……間違ってないけどさ。
快楽主義者だなんて言葉をどこで覚えてきたんだい、君たちは。


「…僕は君たちの将来にも期待してるけどね」


子供は嫌いだけど、この双子の特性には興味がある。
だから暇潰しの玩具だって与えるし、それなりには可愛がっているつもりだ。
まぁ、そんな不純な思惑に感付いてるのが一人いるせいで、思ったように観察できないんだけどね。


「――…ああ。君たちのクラッシャーっぷりは、もしかしたらゼロ似なのかもしれないねぇ」

「エンにーちゃん?」

「エンにーちゃんは破壊者って言うほど荒々しくないよー?」

「「今は。」」


双子の飼い主であるゼロ。
本名はエンゲツといって、少し前まで最も活発だった革命組織の主力要員。
当時の破壊者といえば彼が筆頭だろう。
そんな人物が今、まさか幼い双子のお守りをしているだなんて、誰もが夢にも思わないことなんだろうなぁ。


「ここに来て正解だったよ。絶好の観察対象に恵まれたんだから」


ああ、愉しくて堪らない。
飛星もベニカゲも気になるし、ゼロと双子にも興味が絶えない。
この廻り合わせに立ち合えた僕は本当に運がいい。


「さて、世界はどこまで僕を愉しませてくれるかなぁ」



道化師は笑う


(快楽を得るためならば、)

(何食わぬ顔で)

(敵にも味方にもなるよ。)



―――――
シキが快楽主義者で歪んだ性格なキャラなのだと伝われば幸いです(笑)

双子(ルナとユエ)はifならではのキャラクターです。


2012.4.1




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