上等じゃねぇか。


―ゼロside story―



昼間でも薄暗い路地裏に響く足音が一つ。
歩く度に揺れるワイン色の髪に、澄んだプラチナ色の瞳が特徴的な長身の男。
ゼロ、と彼は名乗ってはいるが、その名は本名ではない。
偽る必要があると言えばあるのだろうが、彼にとって“ゼロ”は、自身に向けたただの皮肉なのだと言う。


「……真っ昼間から、こんな所で待ち伏せとは。軍人サマはよっぽど仕事熱心なんだなぁ?」


ふと足を止めたゼロの前方には、国に属する軍服を纏った男が数名。
たった一人を待つにしては些か大袈裟な人数に、何かを察した様子のゼロは今ではすっかりお得意になってしまった皮肉を述べる。


「ふんっ。随分と生意気な口を叩くものだ、敗者のくせによ」

「恐れ多くも国に反逆した愚か者だ。正しい口の利き方もわかんねぇんだろ」

「違いねぇ!」


国に仕えている割りには、耳障りな下品な笑い声が辺りに響く。
軍人たちは揃いも揃ってゼロを揶揄しては見下す。
その様は決して気持ちの良いものではなく、気の短いタイプの人間ならば直ぐにでも殴りかかっていたことだろう。

しかしゼロは、先程から浮かべている皮肉な笑み以外は全くと言っていいほどに表情に変化が見られない。


「…おいっ、何とか言ったらどうだ!あぁっ?」

「卑しい身のくせに!!」


どうやら先に頭に血を昇らせたのは軍人たちのようで、先程よりも荒くなった口調は見苦しいものでしかない。
そのあからさまな反応が可笑しかったのか、ゼロの口元には綺麗な弧が描かれ、細められた瞳はどことなく悪意が滲んでいるように見える。


「卑しい身だから口を謹んでやってれば、今度は喋れか。軍人サマは卑しい身の敗者と世間話でもする趣味でもあんのか」

「貴様…!」

「わざわざこんな所にまで来て、弱者を相手に鬱憤晴らしなんざ偉大な軍人サマの名が泣くぜ」

「おのれっ、俺たちを愚弄するか!!」

「タダじゃ済まねぇぞっ!!」


次々と紡がれる悪意に、単純にも腹を立てた軍人たちが武器を手にする。
それでもクツクツと喉を鳴らして笑うゼロには、まだ余裕があるようで、自分から一歩二歩と距離を詰めていく。


「結果的には、お前等に負けはしたが、事後被害に関してはどうだったか……忘れたか?」

「ぐ…っ」

「敗者だの弱者だのと見下す反逆者に、敗戦並みの痛手を負ったテメェらの威厳なんざ、とっくに地の底なんだよ」

「き、貴様!!言わせておけばっ」


ついにキレたのか一人の軍人が手にしていた剣の切っ先がゼロを襲う。
が、それを最低限の動作で易々と躱してみせる彼の雰囲気に鋭さが帯びると、まわりの空気までもが冷たくなっていった。


「…さて、仮にも一般人に得物を向けたからにゃ、それなりの覚悟は出来てる、よなぁ?」


物騒な色が混じるその言葉は確認ではなく、最終宣告。
それを耳にした後、体内から骨が軋む音が響き、激しい痛みが軍人たちを襲った。
ゼロによる打撃の反動で壁に叩きつけられた数人は小さな呻き声を残して、意識を闇に落とした。


「弱すぎて話になんねぇ。所詮テメェらは汚ねぇ手を使わねぇと、一人の敗者にも勝てないんだろ」

「っ、き、さまぁ…!」

「俺はテメェらに、国に全てを奪われて今は何も無い。ゼロだからこその危険性を、見誤るな。」


ゼロ、は己の何も無い現状を皮肉った名前。
要するに、夢も理想も仲間も失った今ならば、気に入らないって簡単な理由だけで暴れたとしても後の報復に脅かされる心配などないわけで。
かつては戦闘の主力要員として最前線に立っていたゼロ。
そんな彼を御する抑止力も持ち合わせずに挑発するということは、まさに自殺行為に等しいことなのだ。


「――…敗者に弱者、ねぇ…」



上等じゃねぇか。


弱者だからと見下され、敗者だと罵られても、ゼロである限りは皮肉も挑発も全て俺の自由だ。


(どうせ、)

(埋めようもない虚無しか残ってねぇんだから)



―――――
これは革命軍が崩壊した後、まだ原作の主人公たちと出会ってない頃のお話。ゼロの心が荒みまくっている頃ですね。
ちなみに、武器持ちの軍人相手に、ゼロは素手でボコッてます。


2012.3.30




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