月たちのクリスマス


―ゼロ・双子if story―


最近やたらアジトが騒がしいと思えば、どうやらそれはクリスマスが間近であるせいらしい。ここの革命軍は10代の子供が大半を占めているのだから、イベント事に浮かれるのも当然なことかと理解する。
楽しげにパーティーの準備を進める少年少女たちの輪から外れ、ゼロはぼんやりとその様子を眺めていた。そろそろ双子からプレゼントの要望がくる頃だと思いながら。


「「ピアスがほしい!」」

「………あ?」

「だーかーらープレゼントは」

「エンにーちゃんがつけてるようなピアスが」

「「ほしいのー!!」」


ゼロの予想通りにルナとユエの二人はプレゼントの要望を伝えにきた。のだが、その内容は意外なものだった。
昨年までは新しいナイフだのマシンガンだのと戦闘狂らしい物をねだってきていた(もちろん即却下したが)というのに、いつからピアスなんてアクセサリーに興味を持つようになったのか。


「あー……とりあえず却下」

「「なんでー!?」」

「ガキにピアスはまだ早い」

「「子ども差別反対っ!!」」

「これは差別じゃなくて区別だ」

「屁理屈ー!」

「エンにーちゃん大人げない!」


アクセサリーに興味を持つのはいいが、ピアスとなるとホールを開けなくてはならない。まだ幼い双子の体にホールを開けるということ自体があまり賛成できず、管理面にも懸念があった。
そんな考えからゼロは反対したのだが、ルナとユエは一向に引こうとしない。いつにも増して反抗する双子であったが、今ではすっかり子供の扱いに慣れてしまっているゼロはしれっとした態度を崩すことはなかった。最終的にはあれこれと適当に誤魔化して丸め込んでいた。
大人の狡さというのは、こういうときに限って大いに発揮されるから厄介だ、と後に双子が語っていたのはまた別な話である。

クリスマス当日。
浮かれモードが最高潮に達した革命軍メンバーの騒ぎようには着いていけないと、ゼロは壁際に避難していた。手元の皿にいくつか料理が乗せられてはいるが、それらに手を付けた様子はない。双子以外の前で食事をしないところは相変わらずのようだ。そして今は性懲りもなくパーティーをどう抜け出そうか思案しているのだろう。
目の前で繰り広げられているバカ騒ぎを傍観しつつ抜け出す算段をつけていた彼のもとに、可愛らしく着飾ったルナとユエ小走りで近寄ってきた。
フリルがふんだんにあしらわれた服は双子やゼロの趣味ではない。この人形のような格好は一体誰の趣味なのかと一瞬考えもしたが、それほど気になるようなことではなかったらしくゼロは思考を中断させ、服の裾を引っ張る双子に視線を移す。
ジッとゼロを見つめる双子の視線には期待の色がありありと含まれていた。その瞳が訴えるものを察したゼロは小さく息を吐き、料理が乗った皿を手近なテーブルに置くとジャケットのポケットを漁りだした。


「目当ては……コレ、か」

「「うんっ!」」


上着のポケットから取り出されたのは二つの小さな箱。それはゼロから二人へのプレゼントだった。赤色の箱はルナに、緑色の箱はユエに手渡された。
ありがとう、と言って嬉しそうに笑う双子に少しだけゼロも表情を和らげると、言葉の代わりに二人の頭を撫でてやる。
さっそく双子は箱の中身を見てみることにした。金色のリボンを解き、蓋を開けると中にはまた箱が入っていた。その箱を手に取り、何だろうと首を傾げながらゆっくり開けてみると、そこにはシルバーのイヤーカフ。
三日月の繊細な透かし彫りが施されたそれは大人っぽいデザインをしていて、ルナとユエのものにしてはやや不釣り合いとも思える品だった。


「ピアスは、それが似合うようになったらな」

「「――っ、エンにーちゃん、ありがとう!」」

「わたしたちと同じ月だー!」

「きれいだねー!」


大人めなデザインに最初こそ不思議がっていた二人だったが、告がれたゼロの言葉に意図を察すると飛び跳ねる勢いで喜びだした。どうやら自分たちの名前を連想させる月のモチーフがお気に召したらしい。
今の双子にはまだ不釣り合いなイヤーカフであるが、似合うようになるのはそう遠くはないだろう。そうなれば今度こそ、ゼロはピアスをプレゼントしてくれるに違いない。彼の言葉をそう解釈したルナとユエは、楽しみは後に残しておこうと笑い合った。


「つけてーつけてー!」

「ぼくもー!」

「…ったく、無くすなよ」

「「ぜったい無くさない!」」


上機嫌なまま、とてとてと再びゼロに近寄るとイヤーカフを差し出して耳につけてくれとせがむ双子。その声に煩いと咎めつつも、箱に納まるイヤーカフに手を伸ばすゼロ。高さを合わせるように身を屈め、慣れた手付きで小さな耳にイヤーカフをつけてやる。
すると感激したのか二人は思いっきりゼロに抱きついてきた。が、まだ身を屈めたままだった彼は急な衝撃に耐えきれず後ろに倒れてしまった。


「っ、お前ら、いきなり…」

「エンにーちゃん大好きー!」

「ぼくも大好きー!」

「……はぁ…もう好きにしろ…」


打ち付けた腰の痛みに顔を顰めたゼロは双子を咎めようとするが、あまりにも無邪気に嬉々とはしゃぐ姿に気を削がれ言いかけた言葉を飲み込んだ。それから片手で顔を覆うと深い溜息を零し、疲れ切った声で状況を投げ出したのだった。



月たちのクリスマス。


「そういえば、エンにーちゃんはいつピアス開けたのー?」

「……18の時だ」

「「あれ?」」

「エンにーちゃんが16歳くらいの頃、もうピアスしてたよー?」

「「エンにーちゃん?」」

「………わかったからそんな目で見るな。…14の時だよ」

「「へー!」」

「つか、んでお前らが俺が16ん時のこと知ってんだよ」

「「シキにーちゃんが持ってた画像見たからー」」

「………へぇ…なるほどな」


そう双子が証言した頃、アジトのどこかでシキは不穏な悪寒を感じていたとかいないとか。





―――――
クリスマスのお話でした。
二日遅れだけど!

昨年はゼロとジエンでしたが、今回はゼロと月色双子ことルナとユエのほのぼのとしたお話にしてみました。
久しぶりすぎて口調が迷子ですが…。

2013.12.27




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