もう一つの月の裏側


―ゼロ(Side) if story―


幼い双子に告げるには、些か早い現実の話をした日の夜、ゼロはとある人物に問い掛けられていた。
何故あんな話をしたのか、と。


「――…俺は勿論、あの双子も、もう戦いから避けらんねぇとこまできたからだ」


まだ彼がエンゲツだった頃。
別の反乱軍に属し、国を相手に常に前線で戦い、破壊者として名を馳せたゼロ。
国の軍事施設で人間でありながらに兵器として生まれ、数奇な偶然によりゼロに拾われたルナとユエ。
その特殊な生き様から軍人や裏の人間などに狙われ追われる彼らにとって戦いは、生きるためには切り離せないこととなっていた。
そんな理由から、ゼロは少々残酷なことだと知りながら双子に話せざるを得なかったのだと口にした。


「戦場に大人もガキも関係無い。不変は幻想、殺し殺されは日常、人間であれば例外なく死ぬ時は死ぬ。俺だって最強で万能じゃねぇからな。もしかしたら明日には、くたばってるかもしんねぇだろ?」


だからこそ、現実を教える必要があったのだと彼は嘲けの笑みを浮かべる。
この世に不変などなく、無情にも移り変わっていく世界。
明日には親しかった者が敵になっていいて、望まぬ戦いに対峙し、どちらかが死んでしまうかもしれない。
例え仮定の話であっても決して可能性が無いとは言えない以上、無知のままでいさせてはあげられなかったのだ。


「無知のままで直接残酷な現実を目の当たりにするのと、予め知った上で残酷な現実を迎えるのとじゃ精神的にも違うだろ。迷いは自分も他人も殺す。アイツらにもしもの時を想定させておけば多少の覚悟も出来るはずだ。その対象が俺だとしても、な」


残酷な現実に負けるほどあの双子は弱くはない、と彼は言う。
ただ、不変を思い込んでいる節があったために早々に現実を突き付けたらしい。
そして、先程の嘲けた笑みではなく、彼にしては珍しい穏やかな顔でゼロは続けた。


「ガキをまともに育てられるか怪しい俺に、あの二人は今までついてきたんだ。もしかしたら、アイツらにしか作り出せない可能性が残酷な現実を覆すかもしれねぇだろ?そんな非現実とも言える瞬間を、俺は見てみたいのさ」


珍しい、の一言に尽きる。
どちらかといえば現実主義でドライな彼が紡ぐ、この内容こそが非現実そのもののようだった。
皮肉でも屁理屈でもなく、ただ純粋に期待を述べるゼロの姿を誰が予想できただろうか。
かつては全てを失った絶望から名を捨て、自身の現状を皮肉ったゼロ(零)を名乗るようになった彼が、今は穏やかな瞳で幼い双子への期待を抱いている。
荒んだゼロを知っている者が今の彼を見たなら、きっと別人ではないのかと疑うところだ。


「それに、アイツらには名前がある。ルナとユエ、俺と同じなのは、瞳の色だけじゃねぇのさ」


普段よりも穏やかな彼はそう言って、窓の外に視線を移す。
見上げたその視線の先には、夜空で優しく光る満月があった。



もう一つの月の裏側


(残酷な現実に立ち止まるほど、お前らは弱くないだろ?)

(俺と同じ、二つの月よ)



―――――
ルナとユエのビジュアルがプラチナ色の髪と瞳ってことと、名前から勝手に月色双子と呼んでます(笑)
エンゲツを漢字にすると“炎月”になるため、もういっそ三人を月組に纏めてしまおうかと思ったり。


2012.9.4




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