紅色の雨

―銀骸(現世)―


ガチガチガチ…。
何かが軋んだような不気味な音が聞こえたなら気を付けりゃんせ。
夜な夜な彷徨い歩く“ソレ”に見つかったなら、握り潰されて喰われちまいまさぁ。


「―――…雨、ですか」


月も星も無い夜はただでさえ闇が深いというのに、大きな木々が生い茂る山では一層のことだ。
一寸先さえ見通すことはできないその場所に、闇に混じる黒髪に冷酷な色を宿す銀色の瞳を持った和服姿の男が一人。
彼の感情の読めない小さな呟きは闇に消え、木々の間から落ちてきた雫が男の頬を濡らす。
その雨粒の感触は厭に気持ち悪いものだった。


「曇天や雨は魔を寄せ付ける、か……さて、これではどちらが魔なのか分かりませんねぇ」


クツクツと愉しげで不気味な笑い声が暗い山に響く。
辺りに充満する匂いが男の気を狂わせているらしく、足元に転がる塊を踏み潰して遊ぶ。
暗闇で見えずとも何を踏んでいるのかは彼には、彼だけはよく知っていた。

この山はよく戦が繰り広げられる場所で、当然戦となれば多くの人が死んでゆく。
それらは大概、埋葬されることなく放置され、死体は腐敗し、やがて骨となる。
そして…―――――


「数多の骸骨と数多の怨念が集まり生まれ出でし闇の化生は、不気味な音を闇に響かせながら夜な夜な彷徨っては生きる人を喰らう」


皮肉ではないか。
人間が恐れる人喰いの化物は、その人間が元となっているのだから。
闇を生む人間のが人喰いよりよっぽど厄介で、よっぽど恐ろしい生き物だ。


「――…さて、もう一狩りといきましょうか」


狂気じみた笑みに、今もなお降り続く雨よりも酷く冷たさが帯びた呟きを零せば、男を中心に空気が騒めく。
そして、ガチガチという不気味な音とともに闇夜に現われたのは、雨ではなく血に塗れた巨大な骸骨。
その足元には数多くの骨と腐敗した死体。
周辺を真っ赤に染め上げる血は地面や木の幹だけではなく、高い位置にある枝や葉にまで飛び散っていた。


ガチガチガチ…。
何かが軋んだような不気味な音が聞こえたなら気を付けりゃんせ。

夜な夜な彷徨い歩く“がしゃどくろ”に見つかったなら、握り潰されて喰われちまいまさぁ。



紅色の雨


(洗い流せはするが)

(雨と混じっても)

(血の匂いは消えないんですね)



―――――
何が書きたかったんだか分からない、銀骸のお話でした。
血塗れだったのは人を喰った後だったことも理由ですが、枝や葉に飛び散った血は雨と混ざって銀骸を濡らしていたからです、分かりにくくてすみません!

作中にあったように銀骸は“がしゃどくろ”という人喰い妖怪でございます。
人型なのは、妖怪となって長い時を生き、妖力が強くなったことで変化が出来るようになった、と思ってください。


2012.9.6





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