【琉狩×音葉(@s_nyah)】
2015/05/10
【琉狩×音葉(@s_nyah) SS】
色とりどりの花たちを、興味深いと思ったのはいつのことだったか。ただ確かなのは、あの頃の自分が今の僕を見たら、きっと驚くんだろうな。
情勢が激変して戦争が無期限の休戦となった今でも、残念ながら小さな争いは絶えることなく。規模は縮小されたものの、治安維持を名目に軍は存在し続けた。
今年の春に高校を卒業し、恋人の音葉と同じく正規軍に入隊すること早2ヶ月。琉狩はそれなりに忙しくも充実した日々を送っていた。
――とは言いつつ。これから語られるのは、戦争も軍もほとんど関係ないことなのだが。
「…僕と、結婚してください」
「――…ぇ、え!?」
何の前触れもなく、甘い芳香を放つ白い花の大きな束を手にした恋人に求婚されれば驚きもするわけだが。今まさに結婚を申し込まれた音葉は別のところに驚いていた。目の前の男は、こんなことをサラッと告白するような人だったかと。
「る、琉狩…その、本気で…?」
「本気じゃなかったら、ここまでしないよ」
「そ、よね…」
「年齢的にだって、もう問題ないだろ?」
「それは…っ」
そうだけど…と言い淀む彼女には困惑しかない。自分がよく知っている彼は、それこそ付き合った初期はキスどころか触れることすらままならなくて、甘い雰囲気にはめっぽう免疫がない男だったのだ。時間をかけて(時には荒療治で)どうにか自然に触れ合えるようになったものの、優柔不断な面は残っていたはずなのに。
今の琉狩の瞳には、一切迷いなどなかった。
「急なことで驚かせてしまったのはわかってる。…けど、いずれ言うなら、この日がよかったんだ」
今日は5月9日。一年前のこの日に琉狩は音葉に想いを打ち明け、幸福なことに両想いとなった記念すべき日だった。
「君と恋人になれて一年、いろいろあったけど…幸せだったんだ」
これからもずっと一緒にいたい。優柔不断な僕にしては珍しく、強くそう思ったんだ。
きっと、これからも悲しませたり悩ませてしまうこともあるだろうけど…、僕の人生に音葉以上の女性には出会えないし、愛せない。君が最初で最後でいいんだ。
一生をかけてでも音葉に相応しい男になってみせるから…――
「――僕と、結婚してください」
今まで以上に、音葉の傍で、君を幸せにすると誓うから。
「…っ、ずるい人ね…」
いつもそう…、と零す彼女の瞳は潤んでいた。その目には先ほどの困惑の色などなく、堪えきれない嬉しさが浮かぶ。
「あなたが私を想ってくれているように、私だってあなたを想っているのよ?」
あなただけ、だなんて思わないで。私だって、琉狩の傍にいられて幸せだったのよ。この幸福が続くのなら琉狩が最初で最後の人でいい。
きっと、あなた以上の男性になんて出会えないし、愛さないから。だから…――
「あなたの傍で、私を幸せにしてください」
「!…ん、もちろん」
108本の白い花、白薔薇の花束を琉狩の手から受け取ると、音葉は今までで一番幸せそうな笑顔をみせた。
白薔薇に誓いを。
花束に想いを込めて。
―――――
白薔薇:私はあなたに相応しい
108本の薔薇:結婚してください
2015.5.9