【琉狩×音葉(@s_nyah)SS】
2015/03/28

【琉狩×音葉(@s_nyah)】

桜の蕾も膨らみ、開花も間近となった今日この頃。
ある二人にとっては特別な春が訪れていた。


「――…音葉」


黒軍校の敷地の外れに聳える桜木の下。花が咲けば知る人ぞ知るお花見スポットとなる場所に、一組の男女の姿があった。
名前を呼ばれて、ふわりと短い赤髪を揺らして振り向いた音葉は相手の男に柔らかい笑みを浮かべる。


「……琉狩」

「すまない。少し遅れた…」

「気にしないで。私もさっき来たところよ」


待ち合わせに遅れてしまったと申し訳なさそうな顔をして駆け寄ってきた琉狩。彼女の様子から機嫌を損ねていないとわかればホッと安堵の息を零し、小さく表情を和らげた。
そして、何やら上着のポケットに手を入れると一つの小包みを取り出した。薄い桃色の和紙と白いリボンに包まれた、手のひらに納まるくらいの小包み。そっとそれを音葉に差し出せば、琉狩は少々気恥ずかしげに口を開く。


「誕生日おめでとう、音葉」

「…!」


3月28日は音葉の誕生日。二人が恋人になって初めて一緒に迎える季節であり、音葉の恋人として初めて祝える誕生日でもあるこの日。
音葉は差し出された包みを手にすれば、うっすらと頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。


「嬉しい…ありがとう、琉狩」


小包みを開けてみると中には淡い色合いの桜の簪が入っていた。普通に考えれば短い髪の音葉では付けれないものなのだが…


「…来年の今頃には、付けられるだろう?」


――とのこと。これを口にした琉狩の耳が赤くなっていたのに音葉は気付くも、あえて黙っておくことにしたようだ。そんなことよりも彼女は、彼が来年の春も一緒にいてくれる気でいるのが嬉しいらしい。


「来年はこの簪をつけるから…、一緒にお花見しましょうね」


約束よ、と音葉が言えば琉狩はもちろんだと頷いてみせた。自然と近づく互いの顔に、ゆっくりと目を閉じれば重なる唇。
この上なく特別な春の日に、幾度となく巡りくる春も二人一緒であるようにと願いを込めて。


2015.3.28



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