【琉狩・由狩ハピバ】
2014/11/17

11/17 Happy Birthday



いつ以来だろう――それが、二人の共通した思考だった。
この日に、同じ場所で、一緒に祝われるのは、本当に何年ぶりのことかと。


「ガキのころ以来?」

「お前が毒島家に入り浸るようになってから以来だな」

「え、じゃあ軽く10年くらいか」


11月17日は風萬琉狩と由狩の誕生日。
幼少からあまり仲のいい兄弟とはいえなかった2人は、誕生日ですら一緒に祝ったのは片手で数えるくらいしかなかった。由狩が毒島家の姉妹と関わりを持ってからは尚更のことで。双子であっても、誕生日は別々に過ごすのが例年であった。


「…なのに今更、こうして顔合わしてるとか変な感じだねぇ」

「共通の友人が多いから、だろ」

「あー、確かにそうか」


ささやかにパーティーの飾り付けが施された室内。サプライズで誕生会を開いてくれた友人たちの顔を見やる。この中には、琉狩と由狩の仲が最悪に悪かった頃を知る者も多い。
今、目の前で誕生日を祝ってくれている友人たちは何を思ってこの会を開いてくれたのか、違和感しか感じない2人には想像もつかなかった。
それほど、この状況は琉狩と由狩にとって驚くべきことだったのだ。


「……琉狩さ、一応は彼女持ちだろ?音葉と2人きりになろうとは思わなかったの?」

「なっ、そ、っれは…、余計なお世話だ…!」

「なーに顔赤くしてんのさ。…あー、そっか。まだ夜があったねぇ?」

「そのニヤついた顔はやめろ!」

「やーい、琉狩お兄サマのケダモノー」

「お前だけには言われたくない!!」


ごもっとも、と周りが琉狩の意見に賛同しては笑いがおこる。酷い言われようだと苦笑いするのは、当然ながら由狩だけだった。


「で、お前のその傷は、不貞でもバレたのか?」

「俺、特定の子はいないからな?…つか、その彼女持ちの余裕がムカつく」

「……で?」

「朝一で、愛しの悪友と後輩の柴クンと組手して、いつもの如く白熱しちゃった結果ですが何か…?!」

「誕生日の朝一で、主に常磐と一緒に救護班の世話になったわけか…」

「救護の柳ちゃんからは説教というプレゼントを貰ったよ」


呆れた、と溜息を零す琉狩。
誕生日といえど、悪友や後輩と普段と変わらない日常を過ごしたらしい由狩の顔にはすり傷や切り傷があり、どことなく消毒薬の匂いがする。体には傷の他にも痣があるのだろうと容易に見て取れた。


「まあ、柳ちゃんからはちゃんとしたプレゼントも貰ったけどね」

「後輩に恵まれてよかったな」

「うん。お祝いにって男の教官にハグされたヤツよりは大分いいよね!」

「おまっ、何で知って…!?」

「浮気って思われなければいいねぇ?」

「音葉はそんなすぐ疑ったりするような女じゃない!」

「…だ、そうだよ音葉ー!」

「あ…、しま…っ」


まんまと由狩に乗せられた琉狩と、その恋人がこの後2人して顔を赤くしたのは言うまでもないだろう。
そして後日、琉狩の彼女からは厳しい制裁がくだされることとなるのだが、今の由狩は知る由もなかった。



「―――やっぱり、来てくれたんだ?」


場所は変わり、由狩の自室。
約10年ぶりの兄弟一緒のパーティーがお開きとなり部屋に戻ってみれば、窓辺には銀糸のような髪と碧の瞳が目を引く少女の姿があった。


「来い、て煩かったのはそっちだろ」

「ご足労いただきありがとう。今日は、どうしてもユウノに会いたい気分だったんだよ」

「っ、相変わらず口の軽いやつだな…」


ユウノと呼ばれた少女は黒ではなく、白軍の人間である。しかし、由狩にとって彼女は敵ではなく友人、またはお気に入りといったところだ。それも、今は、の話ではあるのだが。


「気分で呼ばれるこっちの身にもなってほしいものだな」

「そう言いながらも、期待に応えてくれるから好きなんだよねぇ」

「ただの気まぐれだ…!」

「それでも、嬉しいよ」


さりげなく近寄って、彼女の女性らしい白い手を掬いあげれば口づけを一つ。
感謝を込めてと由狩が笑えば、顔を赤らめた彼女に何か言いたげな目で睨まれる。
暫く無言の攻防が続いたが、ユウノの深々とした溜息をきっかけに沈黙が破れ、そっと彼女が口を開く。


「…誕生日、おめでとう」


微笑ともいえない小さな笑みを浮かべた彼女に、由狩は照れに似た擽ったい気持ちになりつつ「ありがとう」と返したのだった。


2014.11.17



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