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 ――わかった、努力してみるよ。

 ボクもキミのことちゃんと好きだって、感じてもらえるように。




***




 どうしてこんなことになったのか。


「はい、あーんして?」


 柄にキャラクターをあしらった―まるで幼稚園児が使うような―フォークが、先に小間切れにされた赤黒い何かを突き刺したまま口元へ伸びてくる。

 それを見ながら、手塚国光はぼんやりと考えていた。


「……不二」

「あ、これ嫌いだった、かな?」
「いや、」


 良かった、じゃあ――、と更に進軍してくるそれに応えるべきなのかどうか、彼は未だ決断出来ないでいる。


「……手塚?」


 ここは三年一組だ。

 普段の昼食風景だった気がするが、先ほどの一言により、恋人と周りに散らばるクラスメートとの表情に整合性が取れなくなった。









 言葉ではなく、行動で示す。手塚はそういう男だった。それは同時に彼が口下手だという事実も含んでいる。

 ただ、不言実行よろしく恋人である不二周助にそう接していても、それが等しく自分に返ってきているとはあまり思えないでいた。


『珍しいねキミの方から電話なんて』
『不二、聞いてくれ』


 もちろんそれに関しては、普段からたいして用も無いのに恋人を側に置きたがる―本人の自覚はともかく―ような男の考えることとして流しておいても良いだろう。

 問題はそこでなく。


『……えっと、どういう意味かな』
『だから、その、だな』


 不二周助は社交的であり、口数も多い。そんな彼が、実は何かと感情の起伏が乏しい男だったことだ。

 これには惚れた手前もどかしくもなる、甘い話題も瞬く間に辛い話題へとすり変わるのだから、手塚―恐らくはそうでなくとも―は、友達づきあいと何も変わらないと考えたはずだ。


『じゃあ例えば、家族みたいな』

『……そうだが、』
『もしかして、もっと?』

『出来れば、そうして欲しい』


 ところが、らちがあかないため意気込んで心うちを告げてみれば予想より楽に快諾を得られたものだから、彼は安易に胸を撫で下ろしてしまった。

 それがつい昨晩のこと。


『おはよう、手塚』
『……早いな、不二』


 重ねて、今朝からの不二は見違えるようだった。手塚が向かうより先に彼が家に迎えに来てくれたし、朝日にきらめく笑顔を注がれ、練習にも更に身が入った。

 もっと早くに打ち明けてみるべきだったと感じたのが、移動教室帰りに一組の前でにこやかに手を振る可愛い恋人の顔を見つけ、思わず仏頂面もほころびそうになった時だった。









「――どうしたの、手塚?」
「はっ、」


 そして今に至る。眼前で扇を描く、形だけはハンバーグなもの。


「やっぱり、ダメかな?」


 そう言って小首を傾げる不二を見て手塚の胸中は四方八方にざわめいた。だが、公衆の面前で食べさせてもらうことなど彼には出来なかった。

 それ以前に、彼らがそんなことをする間柄であると誰も認知していないことにも今更ながら思い当たったが、それどころではない気さえする。


 嫌な予感がした。


「不二、きのう言ったことだが」
「いいんだ、わかってる」


 まだ初日だから、キミはきっとまだ不満だよね――。


 初日。手塚はそこまで勘が鈍い方ではなかったので、それが何を意味しているのか察することが出来る。

 フォークが残念そうに退却していく隙を見計らい、手塚は腹痛を訴え教室を飛び出した。



***




 ――手塚、大丈夫かい? ここ開けて、くれないかな。


 早急に確かめなければならないだろう。どう対処すれば良いのかも。


『もしもし、不二ですけど』
「裕太君――、」


 恋人に惜しみ無く愛を注がれることを嫌がる道理など。そう思いながらも手塚の不安は、ぬぐえなかった。


『手塚さん、まさか兄貴が何か』

「……もしや君も、なのか?」
『あ、手遅れですね』


 彼は今日も受話器を握りしめ、軽く息をもらした。




end
※ImpeRatoR一周年記念


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