(蘭拓) 「ぬはー相変わらずすごい豪邸」 「茶化すなよ」 「茶化してないよ。感心してるだけ」 神童財閥の御曹司という顔も併せ持つ拓人の家は当然のことながら高級住宅地にあって、その中でも一際でかい豪邸だった。一般家庭で育つオレには一生縁がないと思っていたから、小学校で初めてできた友達がこの豪邸住まいだと知った時は興奮したものである。 「今日は遊びじゃなくて、勉強だろ。テストは一週間後だぞ」 「あー忘れてなかったか」 玄関のメイドたちの一人に案内されて、拓人の部屋に通される。「飲み物は何をお持ち致しましょうか」と聞かれて、迷わず飲めないアイスコーヒーを頼んだ。ついついカッコつけてしまうのは、男らしくいたいという深層心理の表れだとこの前拓人に言われた。 「俺はオレンジジュースで」 「かしこまりました」 控え目な化粧をしたまだ若いメイドが出ていく。この前名前聞いたんだった。ああ、マリコさんだっけか。 ものの五分と経たないうちにマリコさんが飲み物と菓子をのせたトレイを持ってきて、丁寧にさしだすと「ごゆっくりどうぞ」という言葉を残して出て行った。親切にアイスコーヒーはミルク付きだったが、オレは飲めないので拓人が頼んだオレンジジュースと勝手に取り替えた。 「素直に頼めばいいだろ」 「やだぁ。拓人くんのいじわるー」 ふざけてぶりっ子ぶって上目づかいをしてみたら、拓人は顔を赤らめて目線を反らした。つーか、女の真似して顔赤らめてもらってもちょっと複雑だな。 「いっ、いいから勉強! ほら、一時間は頑張れよ」 「はーい」 これ以上からかって今泣かれるのも困るので、オレは渋々英語のワークを開いた。これ終わったらいじめて泣かしてやろーっと。 飲めなくて何が悪い 110525 |