君に会いにきた | ナノ
(白シュウ白)

※三年後、いろいろ捏造


寝る前に降っていた雨はすっかりやんだようで、ザアザアと外で雨が暴れる音は聞こえなかった。カーテンを引いて窓を開けると、ふわっと少し温い風が微かに残った雨の匂いを連れて白竜の頬を撫ぜた。太陽が昇る前の薄暗い町中のアスファルトはまだ僅かに濡れているようだった。暫く外気を吸ってぼんやりしていた意識を覚醒させる。白龍は窓だけ閉め、制服を着ようと部屋を振り返った。

「やあ。おはよう」

先に聞き覚えのある懐かしい声がした。そうして振り返った先には数年ぶりに見る元チームメイトの姿が、あった。あの時のままで。

「!!」
「久しぶり。元気にしてたかい?」
「おま……シュウ、なのか?」
「そうだよ。いきなり出たからってそんなに驚くことじゃないだろ? 君と会った時既に僕はユーレイだったんだ」

学生服のような不思議な民族衣装のようなものを纏った少年――シュウはにこりと笑った。どうしてシュウがいるのか、彼はもう…違う世界へ行ったのではなかったのか、様々な疑問が白竜の脳内を駆け巡ったが、とっくに彼のキャパシティをオーバーしていたためそれらは直ぐに頭の片隅に追いやられた。
その後沸き上がってきたのは喜びだった。胸がいっぱいになり、嬉しいはずなのにどこか切ないような曖昧な感情が白竜を支配する。手を伸ばして恐る恐る肩に触れる。確かに実体を伴った感触が掌から伝わり、白竜はそのまま彼を引き寄せて抱きしめた。

「白竜…」
「シュウ……! シュ…ウ………!」
「ハハ。君が泣くなんて……出てきたかいがあった、な」
「…シュウ!」

涙を流す白竜を茶化すような彼の語尾も少し震えていた。それを聞いて更に抱きしめる力を強める。
あの頃同じくらいだった背丈は三年たった今、かなりの差があった。腕に抱いた彼は小さくて細くて今にも消えてしまいそうだ。改めて過ぎた月日を突き付けられたようで…やはりシュウの時間はあの時のまま止まっているのだと理解して緩和したはずの哀しみがまたこみあげてきた。

「白竜、顔見せて」

彼に請われて白竜はいささか乱暴に目涙で濡れた目を擦った。淡い赤色は、泣きはらした後だと充血した部分と相まってかなりおかしく見える。
しかしシュウはその泣いた顔がみたいとでも言いたげに目を擦る腕に手を置いてそれを退かせた。白竜は抵抗しない。シュウはまたにこりと笑って彼を見上げた。

「泣き顔はあまり成長してないね」
「よっ余計なお世話だ」

少しムッとしたような白竜に「冗談だよ」と言うと、シュウは腕の中でもがいた。白竜が力を弱めると腕を擦り抜けて白竜の向かいにあるベッドへ腰を降ろす。

「何か、言いたいことがあったんじゃないの? 僕はそれを聞いてあげるために来たんだけど」

確かに…言いたいことは山程あった。勝手に俺をおいて消えやがってとか、もう一度一緒にサッカーは出来ないのか、とか。だけど感情で占められた頭の中で、それらは聞いてもあまり意味のないことのように思えた。全て終わったことなのだ。今蒸し返しても意味がない気がした。
そんな心中で一つだけハッキリと浮かび上がってきた問いがあった。あれからずっと誰かに、シュウに、聞きたかったこと……

「俺は…」
「うん?」
「俺は、強くなったか?」

シュウと別れ、ゴッドエデンを出て、フィフスセクターを辞めて……本来のあるべき生活に戻った白竜がまずしたいと思ったのは単純にサッカーだった。島の施設にいる間、ずっとそれしかしてこなかったのだ。遅れていた勉強や、誘拐同然で連れ去られたことについての警察の事情聴取(牙山たちを始めとしたあの島にいた教官らは全員フィフスセクターとは関係のない団体として知らない間にフィフスから切り捨てられていたようで、事件が発覚したときにフィフスには何の被害も及ぶことがなかった。その代わり牙山たちは捕まったようだが。)、しなければならないことは山程あった。その中でシュウを無くした悲しみを消し去りたかった白竜はそれまで以上にサッカーに打ち込んだ。サッカーをしていればまたシュウと会えるかもしれないという思いも少なからずあっただろう。
でもそれはゴッドエデンで白竜が目指してきた究極の存在になるためのものではなかった。仲間と共に全力でぶつかり合うサッカーをあの時見付けた白竜が次に目指したものは、「仲間と共に強くなること」だった。自分の力に慢れる事なく、チームとして強くなることを考える…。それは確かに白竜を変えた。
夢中で駆け抜けてきた三年間のおかげで白竜は今、プロリーグのジュニアチームのキャプテンになるまで成長した。彼の周りには信頼し合える仲間たちがいる。ただ究極を求め、個人の力のみを鍛えていた頃とは違う。

「僕がいなくなってから、君が頑張ってきたこと、知ってるよ。新しいチームメイトと一緒になって強くなってきたことも。自分一人の力しか知ろうとしなかったあの頃とは全然違う。君はちゃんと強くなった。僕が想像していたよりもね」
「本当か?」
「うん。まあ負ける気はないけどね? ……でも本当に、君は強くなったよ」

シュウが白竜に手を翳した。その指先の輪郭がぼんやりと歪んで白い光が立ち始める。

「それは…」
「さて。そろそろ時間みたいだ」
「待ってくれ! もう一度サッカーは出来ないのか?」
「それはできないんだ。あの頃と違って僕にはもう、未練とか怒りは殆ど残っていない。つまりこっちに留まって実体化し続ける力はもうないんだ」
「そんな」

ベッドからシュウが立ち上がる。よく見ると手だけではなく全身の輪郭がぼやけ始めていた。

「じゃあ、また会えるか?」
「さあ? こうして実体化するための力溜めるのにこれだけかかったんだ。まあ、次はプロリーグで活躍する君に会いたいかな」
「わかった、精進しよう。待っている。……お前も、俺が行くまで、そっちで待っていてくれよ」
「んーあんまり早く来ないでよ? 僕結構モテるから、もっと楽しみたいし」
「そうなのか?」

純粋に驚いたような白竜の反応に、シュウは一瞬眉をしかめた。想像していた反応と違ったらしい。しかしそれを直ぐに打ち消すと白竜に近づいて顔を上げた。かなり差があったことに気付いたシュウは舌打ちをして、白竜の後ろ髪わ引っ張って顔を近付けさせた。そうしてようやく縮まった距離を自分から背伸びをすることで更に縮め、強引に唇を合わせた。直ぐに離れたそれに驚いた表情を隠さない白竜。満足気に頷いたシュウは「ちゅーされるとは思わなかったでしょう」といたずら気に囁いた。

「誕生日おめでとう白竜」
「あ…」
「それ誕生日プレゼントね。……本当のことを言うと今日出てきたのは君の為じゃなくて、これを言いたかった僕の為だったんだ」
「…ありがとう。シュウ」
「ははっ、ありがとうって言ってくれるんだね。引かれるか軽蔑されるかと思った」
「それは無いさ」

どうして、と言いかけてシュウは自分の体を見た。体を通して向こうが見える程透けている。もう時間はないようだった。こうであればいいなという願望と共に言いかけた言葉を封印した。これ以上自分に彼を縛ることは出来ない。
足や手の指先から光といっしょに体が消えてきた。白竜はシュウの変わらない顔姿を目に焼き付けようとした。

「じゃあね」
「…嘘になってもいいから、『またね』と言ってくれ」
「ははっまだ泣くの? …わかったよ。またね、白竜」
「笑うな…。またな。シュウ」
「………ずっと…君のそばにいるよ」

また泣きそうになっている白竜につられたのか、シュウは微かに目の端に涙を浮かべ、にこりと笑ってそう言った。すると辛うじて残っていたシュウの体がふわっと光に包まれて、次の瞬間ぱあっと光が弾けた。キラキラと空中に霧散するそれに白竜は手を伸ばす。
化身を出すときの気は黒かったのになあ、とどうでもいいことが頭を掠めた。すると窓をしめたはずの室内に暖かい風が一吹きした。それに乗ってクスクスとシュウが笑う声が聞こえた気がした。



君に会いにきた
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わかりづらいんですが、ゴッドエデンのころの二人は友達以上恋人未満でした…

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