神童くんと霧野くんを観察してみた | ナノ
(拓蘭)

※モブクラスメイト女子視点


本当に眉目秀麗とか容姿端麗という言葉が似合うと私は初めて彼を見たときに思った。綺麗な顔立ちに加え、運動部の花形であるサッカー部の一軍レギュラーだったし、人当たりも良く同級生の男の子たちより大人びいたクールな性格でもあったため、いつも一緒にいるところを見る神童くんのように表立っては言われないが、彼と同じようにいつも女の子たちの話題の的だった。私の一つ下の弟の話によれば、一年生の間でも二人は有名らしい。さらに付け足すなら、男子の中では霧野くんは本当は女子なのではないか、という本気なのかよくわからないことまで言われているらしい。そして純粋に彼に好意を寄せている男子も全学年を通して少なくない…とかなんとか。
霧野くんと神童くんは二人でよく不思議なアイコンタクトをとることがある。霧野くんがじっと綺麗な色の目で一点を見つめるときがある。そういう時視線を辿っていくとだいたい神童くんだった。周りの喧騒に紛れて上手く誤魔化すように合わせるのだ。一瞬だけのときもあればしばらく見つめあっているときもある。何故に周りは気付かないのかと思ったが、神童くんファンは神童くんしか見ていないし、霧野くんファンは霧野くんしか見ていないからそんな彼らの視線の先までは追わない。当然のことだった。
神童くんは彼の瞳に何を見ているのだろう? 互いを見つめてフッと微笑む彼らは、簡単に言うと恋人同士のそれみたいで、私を見てはいけなかったようなものを見たような気持ちにさせた。
仲が良く口の固い友達にそれを言うと、オタクである彼女は「付き合ってたりしてね、その二人」と面白そうに言った。

「冗談。やめてよ、そーゆーの好きなのわかるけど」
「アハハ。でもあんな美少年二人がホントに付き合ってたりしたらマジ萌えるわ。美味しすぎるでしょ」
「悪趣味ー。私は理解できない」
「ホホホ結構結構。アタシのオカズにさせてもらうから。でもさーあいつらどっちが攻めだと思う? アタシはね…」

これ以上彼女の妄想に付き合うと本当にそう見えてしまいそうだったので、私は慌てて話題を変えてやり過ごした。



それからそのことについては考えないようにして数ヵ月が経った頃、私は教室に忘れ物を取りに行っていた。完全退校の時間まであと十分も無く、二年生教室のある階までくると誰もいない。一緒に帰る友人たちは玄関の外で待っていると言ってついてきてくれなかった。冬が近く陽が短いため外は真っ暗で、頭の中はつい最近聞いた怪談話ばかりが占めていた。一刻も早く立ち去りたい私は教室に入ると急ぎ足で教卓に向かった。しゃがんみこんで教卓の引き出しの中の今日配られたプリント類の余りを漁る。恐怖の中たくさんのプリントの中からやっと目当ての数学のプリントを見つけ出した私はホッとため息をついた。途端廊下の方から何か人の声とバタバタという足音が近付いてくるのに気付いた。普段なら誰かが来たくらいにしか思わないのだが、頭の中に数々の怪談話が駆け巡り恐怖心が勝った私はしゃがんだまま教卓の下に隠れた。すると教室の後ろの扉が乱雑に開けられ誰かが入ってきた。

「あーーーーーーー宿題忘れるとか馬鹿みたいだ…」

声には聞き覚えがあった。霧野くんだった。椅子を退かす音と机の中の紙類を漁る音が聞こえる。安心して出ようとするともう一人誰かが入ってくる音がした。

「見つかったか?」
「んー待って……」

苦笑したような声は神童くんのものだ。怪談話が消え去った頭の中に急にいつかの友人の言葉が浮かんで私は思わず固まった。『付き合ってたりしてね、その二人』即座に否定するが、完全に出ていくタイミングを失った私は仕方がないので彼らが出ていくのをそこで待つことにした。

「でもびっくりしたぞ。急に叫んで走っていくから」
「いや…今日でた数学の宿題の答え、明日オレ書かされる予定じゃん。……なのに机の中入れっぱなしだったから。…あ、あった!」
「成る程な」
「ちょっと待って。仕舞うからさ」

大した会話でもないが、なんだが盗み聞きをしているみたいで嫌な感じだ。くだけた口調から本当に親密なのだとうかがわせる。早く出ていってほしい。

「ん、よし。ごめん待たせて。帰ろうぜ」
「そうだな………」

やっと出ていってくれると胸を撫で下ろした私の耳に「その前に」と神童くんが言うのが聞こえた。すると「へ?」と普段聞いたこともない気の抜けた霧野くんの声とタタッと数歩分の足音を最後に音がしなくなった。何が“その前に”なのか? 音がしなくなったということは二人は出ていったのか、混乱していると微かに鼻に掛かったような女の子みたいな声がした。次いでガタッと机が動く音が聞こえる。

「……ふっ、………んんー、んっ………ぁ」

心臓が激しく脈を打つ。やばいやばいやばい。これは流石に何をしているのかわかった。背筋を汗が伝った。見てはいけないと頭の中で警報が鳴るのも構わずこっそり息を殺して教卓の影から声のする方を盗み見た。

「!!」

そこには口付け合う二人がいた……。




そこからさきは声も出ず呆然としていた。衝撃が強すぎた。霧野くんの腰と頭に手をやる神童くんも、机に片手をついてもう片方で神童くんの胸を叩いて抵抗する霧野くんも、彼らにとってその行為はそれが初めてではなく、寧ろやり慣れてることを物語るには充分であった。抵抗する霧野くんに根負けしたのかそのあとすぐ唇を話した神童くんに霧野くんが「誰か来たらどうするんだよ!」と泣きそうな声で小さく怒鳴った。一方の神童くんは悪びれもなく「一度教室でしてみたかったんだ」と言った。

「してみたかったじゃないだろ!」
「悪い。…でも、興奮しただろ?」
「……っ、」
「図星か?」
「うるさい!」
「おい、待てよ」

言葉に詰まり黙って先に出ていく霧野くんを、楽しそうな声で神童くんは追いかけていった。
そのあと遠ざかる足音が聞こえなくなったのを確認してそろそろと教卓を這い出た私はあれだけ怖がっていた廊下を無心で駆け抜け玄関の友人たちのもとに戻った。
青ざめた顔をして息を切らす私を友人たちはゲラゲラと呑気に笑った。

「どうしたの?」
「オバケでも出た?」

オバケじゃないけど…。心の中で呟いて頷くと友人達はすこしザワッとした。

「怖かったよお……」

本心から呟いた私に彼女たちはキャーキャー悲鳴をあげた。
本当に怖かった。彼らがというより、美少年二人がキスする構図に萌えてときめいてしまった私が!! 今何かに目覚めつつある私が!!



神童くんと霧野くんを観察してみた
111227

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こうして一人の腐った女子が誕生しましたとさ
オタク友達と二人でニヤニヤ拓蘭を観察する日々が始まることでしょう

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