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(浜野と山菜)


「山菜さん、これは?」
「200円よ」
「これは?」
「シン様は300円」

時々撮りためた写真の数々(被写体はサッカー部員)をプリントアウトして女の子たち相手に売ることがある。教師にばれないよう、昼休みにひっそりと教室の隅の自分の席で。シン様はもちろん霧野くんや(もういないけど)南沢先輩、最近だと狩屋くんたちは女子人気が高くて、試合中や練習中、マネージャーだからこそ撮れるシーン(ここでは敢えて言わないでおくことにする)の写真を並べるとすぐになくなってしまうのだ。売上は上々でもとが取れる上にいい小遣い稼ぎになる。だからこうして写真を売るのは気に入っていた。

「山菜あ〜。なんか霧野の写真売ってー!」
「浜野くん。……そういう趣味があったの…?」

女の子の波も途絶え、売り物の写真も無くなってきたので、店仕舞いをしていると、浜野くんがふらふらと歩いて来た。歩いてきた方を見ると、廊下に違うクラスの男の子たちが5、6人いる。

「ちげーよ。アイツらがほしいって言うの」
「へえ……」
「そこまで仲いー訳でもないし、自分らで買えよって言ったんだけど…。ちゅーか霧野って。あいつも可哀想だよなあ」

そうね、と相槌を打って、彼らみたいな人用のために残しておいたとっておきを数枚売りつける。去年の三送会で無理矢理着せられていた霧野くんの女装姿とかマニア向けの数々。受け取った浜野くんは少し気の毒そうな顔をしてから「ちょっと待ってて」と廊下の男の子たちのところへ走っていった。言われた通り片付けながら待っていると、浜野くんは戻ってきた。男の子たちはもういなくなっている。

「な、俺のはないの?」
「あるけど、売れないから」
「だよなー。じゃあ速水とか倉間は?」
「まあまあ売れるかな」
「ウソだろー。見せて見せて!」

彼にせがまれて、自分用に写真をファイリングしているミニアルバムを見せる。へえとかふんとか漏らしながら写真を見る彼が面白かったのでカメラで撮ってあげた。

「勝手に撮るなよぉ」
「部活のときは勝手に撮っているじゃない」
「あ、そか」

全ての写真を見終えたあとで、アルバムを閉じ、不思議そうに彼は言った。

「お前の写真はねえの?」

何を言っているのかと思った。カメラマンが被写体になるわけないではないか。自撮りという方法はあるが、そもそも自分で自分を写そうなんて思わない。

「あるわけないじゃない」
「そんなのつまんねえじゃん。わかった。俺が山菜撮ってあげる。カメラ貸して」

貸してと言った割に強引に私からカメラを取り上げた彼はぎこちなくそれを構えレンズをこちらに向けた。

「山菜ー。はい、チーズ」

突然のことで何のリアクションもとれず、カシャッという間抜けな音とともに撮られる。「間抜け顔」と彼が笑うので不本意ではあるがもう一度撮影を要求した。

「いきなり撮らないで。私がどうぞって言ったら可愛く撮って」
「はいはい」

手鏡を出して髪を整えレンズに向かって微笑む。

「どうぞ」
「はい、チーズ」

今度はまともに写った、と思う。彼からカメラを取り上げて撮った写真を見るとそこそこまともに写っていた。その前の写真は見たくないので即消去する。

「ちょ、何消してんだよぉ!」
「自分の間抜け顔なんて、気持ち悪いもの」
「可愛かったのに!」

リベンジを目論む彼にカメラを奪われないようしっかり握って、まるで睨めっこのようにそうしていると、速水くんと倉間くんが彼を呼びに来た。

「浜野、次移動教室だろ」
「ああ。わりーわりー」
「山菜さんと何してたんですか?」
「あ? にらめっこ?」
「分かったから、早く行こうぜ。予鈴鳴るって」

倉間くんが浜野くんを急かすとタイミングよく午後の授業の開始5分前を告げるチャイムが鳴る。げ、と倉間くんと速水くんが顔を合わせて教室を出ていった。(私は彼らとはクラスが違うので関係ない。)「待てよー」と浜野くんもそのあとを追いかけていく。途中、振り返って何のつもりなのか「お前の2枚目のやつ今度売ってくれよ!」と言い残していった。深く意味は考えないようにして、いくらで売ろうかと私は思案する。……にしても、騒がしい昼休みだった。




Noisy…
111113

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