(マサ蘭) 秋とか冬とか、寒い季節は嫌いだ。吹き付ける風は冷たくおれの体温を奪うし、寒さと乾燥のせいで風邪はひくし、厚着のせいで露出は少なくなるし…。霧野センパイなんか無駄に男装してるからただでさえ露出少ないのに、寒くなってみろ。髪を結って唯一露わになっていた項がマフラーやネックウォーマーで隠れてしまうじゃないか。 「露出が少なくなるはないだろ……。つか、無駄に男装ってなんだよ」 「だって、恋人同士の冬といえば冷たい手を繋いで暖めあうのが通例行事でしょう。なのにセンパイ、男装なんかするから、手繋げないじゃん」 「いや、オレ男だからこの学ランが普通なの」 うむ、それは正論なのだ。分かりきっているけどね。 「手繋ぎたいの?」 「寒いんで。カイロくれるんならそれで我慢しますけど」 わざわざ強請るように手を差し出すのにセンパイは「やらない」と言い切った。粘りたいところだが、冷たい北風には耐えられなくてすぐにズボンのポケットに手を突っ込んだ。寒い。センパイのせいだ。キッと効果音が出そうなくらい強く睨みつけると、センパイは右手を強引におれの左ポケットに入れてきた。 「ちょっ、なんですか」 「オレ、手の体温高いんだ」 確かにポケットの中で手の甲に重ねられたセンパイの掌はおれの冷たい手とは違って断然温かい。じわじわと移ってくる体温は心地の良いものだ。しかしだな。制服のズボンの狭いポケットの中は、強引に男の手が二つも入ったせいで許容オーバーに近い。加えていくら既に日が暮れていているからといって人影ぐらいは見えるのだ。この絵面はどうかと思うが。 「わかりました。めっちゃ温かいです。ありがとうございました」 「な、なんだよ。人がせっかく、」 「センパイ。あなたが積極的なことは嬉しいですけど、絵面とか人目気にしなくていいんですか」 「あっ…」 言われてやっと気付いたのか、後ろを振り返ったり挙動不審な態度を取りながらセンパイは慌てて右手を引っ込めた。熱源がなくなっておれの左手は寂しい。言わなきゃよかったかも。 「カイロを貰うための冗談のつもりだったのに。センパイ本気にしたんですか」 「うるさいっ!」 センパイは湯気が出るんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にした。あったかそうだと思って冷たい指先で頬に触れるとビクッと肩が揺れた。触れた指先の熱はさっきの右手よりも温かい。つうか熱い。 「熱いねセンパイ」 「お前は冷たすぎ………やっぱこれやる」 顔を赤らめたままむすっとしたセンパイは自分のポケットにいれていたカイロをおれに寄越した。新しい熱源が手に入ったので大人しく頬から指を離す。頬も温かかったけど、多分首が一番温かいんだよなと思ってちらりとセンパイのマフラーで隠された首を見た。また新しい熱源が欲しいとは思ったけど、そんなことをしたらどうなるのか予測出来たので今日は止めておく。 「センパイんち行っていい?」 その代わりなんていったらなんだけど、早く白い項を見たい。 あなたとなら凍死でもしてみたい気分 111028 |