(京天) 「剣城じゃん。奇遇だね、こんなところで会うなんてさ!」 「おう…こんなところでなあ」 こんなところというのは花屋。兄さんの見舞いに行くのにたまには花を病室に飾ってあげようと思ったのだ。店に入ってきた松風は店頭に飾られたカーネーションにちらりと目をやって、レジ脇のカタログを取った。 「母の日が近いだろ。だから送ろうと思って」 金はあるのかと聞くと、「そのために貯めたから大丈夫」と答えた。ぱらぱらとカタログをめくる手を止めて、松風はこっちを見た。 「これとこれ、どっちがいいかな」 「俺に聞くのかよ」 「いいじゃん。どう思う?」 カーネーションだけのバスケットとピンクや赤などの色の花のバスケットを松風は指差した。もともとそのどちらかにしようと思って目星は付けておいたのだというくせにまだどちらにするのか決めてないらしい。値段を見比べるとカーネーションの方がいくらか高い。迷わず俺は反対のバスケットを指差した。 「それか……オレもそっちがいいんだけど、カーネーションじゃないんだよなあ」 「母親なんて息子からならなんでも嬉しいんじゃねえの?」 「そう、かな。そう思う? じゃあこれにしよっかなー」 満足そうに頷く松風を尻目に俺はレジ奥でラッピングされてる花束を見た。兄さんは喜んでくれるだろうか。 「剣城もお母さんに買うの?」 「ばか。ちげーよ」 「じゃあ誰に?」 「…言うかよ」 ケチだのと罵られてるとラッピングが完成して店員に手渡された。ふんわりと花の香りが鼻をくすぐる。小さいこの花束を見て松風は言った。 「…そっか。きっと、喜んでくれるよ」 「は」 「喜んでくれる! そうゆうこと!」 「ンだよ急に…」 松風はにっこり笑って「早く行きなよ」と俺を店から追い出した。本当に…めちゃくちゃなやつだと思う。けれど、その一言が俺の背中を押してくれたように感じるから不思議だ。 強引なシメに今更笑いがこみあげてきて喉の奥で笑っていると、店の扉が開いて「言い忘れたけど、ちゃんとお母さんにもおくらないとだめだよ」ととても真面目な顔をした松風が言った。このおせっかいが。そう言おうとしたが言いとどまって、「ありがとう」と言っておく。その一見すると噛み合わない俺の返事に松風はきょとんとした顔をした。 花屋にて 111008 ------ 京天の日記念のつもり |