(拓人+蘭丸母) 「あらぁ、たっくん。こんなところで会うなんて奇遇ね」 「あ、こんにちは」 家から少し離れた大型ドラックストアに行ったら偶然にも霧野の母親と会った。たっくんなんて懐かしい呼称で呼ぶのは今となっては彼女だけだ。(霧野も呼ぶことはあるがふざけた時とか稀だ。) 霧野は母親似で、桃色の質の良い髪や形の良い鼻と口は母親の要素だった。そんな霧野の母親は、桃色の髪は黒く染めていて目立たないようにしているが、顔立ちがはっきりしていて美人なのでやっぱり目立っていた。 「またかっこよくなっちゃってえ」 「いえそんな」 「ね。彼女とかいないの?」 「いませんよ」 小さいころから知っているのであまり遠慮がない人だけど、その絡み方は霧野と似ていて特に嫌な感じはしない。それに、世間知らずなうちの母親とはウマが合うらしくよく二人で出かけていたりするので、親子そろって仲がいいのは最早血なのだろうかと思う。 すると、あ、と何かを思い出したような声をあげて彼女は困ったように手を頬に添えて言った。 「そういえばまた昨日蘭丸泊まっていったでしょ? ごめんね、うちのバカがいつもいつも」 そのことかと納得して、いいですよと言った。寧ろ毎度毎度泊まることを承諾してくれてこちらとしては助かっている。 「そう? でも最低週に一日は泊まっていくでしょう。まあ小学生のころからの話だし、今更ってことなのかしら」 「はは」 「今度はうちにも泊まりに来なさいね。ごめんね、引きとめちゃって」 「いえ。目薬買いに来ただけなんで」 「そう。じゃあまたね。お母さんによろしく」 「はい。失礼します」 相変わらず固いんだから、と笑いながら手を振って霧野の母親はレジへ向かって行った。ほっとして、俺はいつも買う目薬を手に取り場所を移動する。 正直言うとわざわざこんな離れたドラックストアまで来たのは、コンドームを買うためだった。間違ってそんなところを見られでもしたら(しかも幼馴染で尚且つそれを使う相手である霧野の母親に)と考えるとぞっとする。本当に見られなくてよかったと改めてほっとした。 言えない話なんてざらにある 111005 |