(拓→蘭) 「神童…」 「ん?」 「あれ、コロッケ奢って」 帰り道に寄った商店街の本屋を出ると店先で待っていた霧野が向かいの肉屋を指差した。放課後の買い食いは校則で禁止されていることを指摘しようとしたが、あまりにも物欲しげに霧野が見てくるし、実際のところ部活の後で俺もお腹が空いていたのですぐに折れてしまった。さっきしまったばかりの財布を取り出して向かうと後から霧野がついてきて「さすが神童太っ腹!」と、満面の笑みで言う。霧野は物でもなんでも強請るのが上手い。 「すみません、コッロケ二つください」 「二つね。百八十円だよ」 二つ分の代金を渡すと底が熱い紙袋を二つ手渡されたのでその一つを霧野にやる。嬉しそうに受け取って中身を覗いた霧野が「あれ」と声をあげた。 「二つ入ってる」 「え」 「ハハツ、イイ男には一つずつサービスだよ」 「ホント? ありがとうおねーさん」 霧野が言う通り俺の紙袋にも二つコロッケが入っていた。礼を言って店を出る。隣を歩く霧野がさっそくコロッケを食べだしたので、俺も一つ取り出して食べることにした。出来立てなのか熱々だったのでふうふう冷ましながら食べなくてはいけなかったが、やっぱり家や学校で食べるのとは違ってすごくおいしい。じゃがいものうまみが口に広がって、決して高級な味ではないのだが、懐かしい味といったところか…つまりはとても美味しかった。 「うま〜」 「そうだな」 「ありがとう神童」 「どういたしまして」 そういえば、どんな料理でもシチュエーションが変われば味も変わると何かの本で読んだ。ならこのコロッケがおいしいのは隣でおいしそうに食べる彼のおかげでもあるかもしれない。 「次本屋行く時も奢ってな」 「そうだな、考えておこう」 「とか言って結局は奢ってくれるけどな。たっくんは」 だから俺がこうして霧野に奢るのは彼がただ単に強請り上手の奢らせ上手というより、ちょと違うところに理由があるのだと思う。つまりは俺が霧野を好きだからとか。 二人っきりの放課後 110925 ------ 企画『君とキスする五秒前』様に提出させていただきました 〆切ギリギリですみませんでした 参加させていただいてありがとうございました! fromバランス |