(京天) また眉間に皺を寄せて練習を眺めている剣城がオレの視線に気付いてこちらを向いた。一層皺を寄せて何か言っているけど、遠くて口の動きしかわからない。仕方が無いのでつったったまま剣城を見ているとこっちに歩いてきた。 「――見てんじゃねえよ! いつもみたいに練習したらどうだ!」 「ごめん。オレ考え事してて」 「はあ? 人の顔見てか?」 そんなに怒ることないじゃん、と言うと、俺はお前のこと気にくわないから嫌なんだよ、となんとも勝手なことを言う。 ――本当はオレのこと、好き、とか言うくせに。 ついこの間の二人きりの部室での出来事を思い出す。好きだと言われて抱き締められて。あの時は何が起こったのかと思った。 でもそう言うわりには今みたいに表面上での付き合いはこれまでと何も変わりはないし、剣城がフィフスセクターのシードだという事実も変わることは無く、言うならば敵同士のままだった。 「お客さんが来てるわよ天馬」 その日の夜、風呂からあがると秋ねえがそのお客さんを連れて訪ねてきた。家に帰ってすぐ鍵をかけておいたのだが、オレが入浴している間に来たらしく、廊下で立ってるのを秋ねえが見かけて、そんなところじゃなんだからと言って管理人室に一緒にいたらしい。その、お客さんは俺のよく知った顔だった。 「よお」 「剣城…」 秋ねえが帰っていくのを見てから剣城を廊下に残したまま扉を閉めた。はずだったのだが、素早く反応した剣城が足を差し入れてそれを阻止したので、仕方なく部屋にあげた。 「きったねえ」 「汚くない。だいたい急に来るからだよ」 別に足の踏み場がないとかそういうことはなく、ただベッドの布団が朝起きたままの乱れた状態だったり、学校のカバンが床に放り投げてあるだけで、全体的に見れば綺麗な方だと思うのだが、剣城は汚いと言った。人んち来て第一声それかよ。 「一人暮らしなのか」 「そうだよ。よくわかったねここ」 「あのアホ監督に聞いた」 立ったままいるので、座布団を叩いて座るように促し、自分はその隣に座った。剣城は物珍しげに部屋をきょろきょろと見ている。 「どうしたの。円堂監督にわざわざ家聞いてまで来て」 「いや、別に……」 今まで威勢のよかった態度は急にしどろもどろになる。 「なんだよ」 「あー…」 「剣城ぃ」 「その、部活のときは、悪かった」 「……は?」 どうやらわざわざ訪ねてきた理由はそれらしかった。変なところで真面目みたいだ。 「何、それだけ?」 「……悪いかよ」 「別に。あんなのいつものことなのになあって思って」 「気分だよ気分」 それきり会話は無くなってしまって、オレは部屋の時計を見つめる。九時三十六分二十一7秒、二十二秒、二十三秒………秒針の動く音だけが響く。 ふいに剣城がオレの顎を掴んでそちらを向かせ、唇をオレのそれに押し付けた。 「ん、ぅ」 薄く開けていた目蓋を閉じてざわと唇を緩ませると、剣城の舌が新入してきてオレの舌を絡め取って口内を蹂躙していく。顎を掴んでいた手はいつの間にか頭に回され固定されていた。次第に呼吸が出来なくなってきて息苦しさに剣城の胸を叩いたらやっと解放しいてくれた。息が上がって顔が熱い。多分オレ真っ赤な顔してる。 「松風…」 「つる、ぎ?」 オレが息を整える様子を見てた剣城はオレを引き寄せてやんわりと抱きしめた。 「好きだ」 「前にも聞いたよそれ」 「たとえ今立場が敵同士でも好きだ」 「……へえ」 「お前は?」 オレは、どうなんだろう。ただなんとなく一緒にいるけど。ハッキリとした気持ちは自分でもわからない。 珍しく寄ってない、むしろたれ気味の眉で不安そうに剣城はオレを見た。わからない。わからないけど。 「…………まだ未定」 「ンだよそれ…」 オレたちを取り巻く環境は剣城の告白のあとでもたいして変わりはしなかった。でも、剣城にキスされたりこうして抱きしめられたりするのはもちろん、ただ一緒にいる今が心地いいと感じるし、わけのわからない罵倒(最近は剣城の照れ隠しなんじゃないかと思ってる)とかも許せるぐらいには、オレは剣城のことを思っているのだろうなと思う。 どうか君にだけ伝わって 110812 title::KB ------ 企画『君といれば幸せ』様に提出させていただきました 参加させていただいてありがとうございました! fromバランス |