(蘭拓+二年) 「あっ、くそ、……な、は? ちょ、えーー」 「イエーイ勝った〜」 隣でコントローラーを握った霧野がブイサインをしてオレを笑う。こいつありえねえ強さあだな。テレビ画面には霧野の方にWINの文字、霧野が選んだキャラクターが倒れたオレのキャラクターに何か決めセリフのような罵倒を浴びせている。(ちなみに霧野が選んだのは明らかにエロ要員の女キャラだ。) 「霧野つえーんだな〜」 「これでオレに勝てるやつがいたら見てみたいよ」 「はわわ……余裕ですね…」 「速水やってみたら」 「えええ、やですよ」 「やれよ、ホラ」 浜野の提案に乗って無理矢理オレが持っていたコントローラーを速水に押し付けると文句を言いながら渋々キャラ選択をしてゲームを始める。 事の成り行きは少し終わりが早かった部活の後、久々に二年生で遊ばないかと霧野が言い出したことだ。神童の家で集合になって、霧野が持ってきたのは格闘ゲームのカセットだった。ゲーム本体は神童の家にあるので、やけにでかいテレビにつないで五人で交代交代に遊んでる。 「うわ。あああ……死んじゃいますっ…て、速い、」 「速水がんばれよ〜」 「おっしゃ、これで終わり、だ」 「あぁー………。やっぱ無理だったんですよぅ」 かなりやりこんでいるのか、霧野はコンボ技を次々と決めて今まで一人勝ちだった。浜野もオレも速水も負けた。残るは神童、だけど、こいつはさっきからぼーっとゲーム画面を見ているだけだった。たぶんこうしてゲーム本体はあるけど、したことないんだろうなと思う。だってカセット一つもねえもんな。 「じゃあここはいっちょ、キャプテン様が仇とってやれよ」 「え、俺か?」 「頼みますよ」 「神童じゃ無理だろ。さっきからこいつ見てるだけだぜ」 「安心しろって倉間。オレはいくら相手が神童だからって手加減しないぜ」 「あはは、神童頑張らないと秒殺だって」 浜野や霧野やオレが好き勝手言っている間、神童は速水に操作方法を教えてもらいながらのんびりとキャラ選択をしていた。霧野はまたあの女キャラを選ぶ。 「お手柔らかにな霧野」 決定ボタンを押した神童がふっと笑うと、霧野はピシッと音を立ててフリーズした。 ゲームが始まる。今までなら始まった途端に速攻してきた霧野が動かない。速水に教えてもらいながら、神童がパンチばかりでたらめにくらわせる。「霧野」と声をかけるとようやく霧野が動き出したが、動きがわざと攻撃を受けているような不自然な動きだ。時々霧野も反撃はするが今まで散々繰り出していたコンボ技はひとつもでないし、だいたいこいつは攻撃は絶対かわすかきっちりガードしてたはず。 「…ん? え、これって俺が勝ったってことなのか?」 「………そういうことだな」 「はー。負けたよ…神童」 自分に勝てるやつがいたら見てみたいと豪語してた霧野があっさりと(というかどうみてもわざと)負けた。にこりと可愛らしく微笑み満足そうな顔で、はしゃぐ神童を見てる。 「はは。愛されてんのな」 「? 何の話だ浜野」 「なんでもないですよ」 なんというか……ふたりでやってろって感じ。 やさしいクズ 110808 title::放電 |