02
あれから彼はあっけなく骨になったのです。笑ってしまうくらいに、あっけなく。
「嗚呼…あなたが付けた跡も、遂に消えてしまいました」
あの日、閨で交わした睦言も、熱も、鮮明に思い出せるというのに。
***
元来、彼は物欲の強い男ではありませんでしたから、宛がわれた部屋にも文机と座布団、押入れに寝具一式それ以外には硯と筆というような必要最低限のものしかありませんでした。ですから、今となっては左京という男が、本当に存在したのかすら…、彼の存在を確かめる術は、もはや、記憶しかないのです。
しかし確かに彼はここに存在し、あの日まで私の傍らに居たのです。
――思い出に浸るには、
あの男が残したものは少なすぎました。
ですが忘れるには、
あの男はあまりに多くの痕跡を残しすぎたのです――
「左京、左京、」
信長公を討ち、
はたと思ったのです
自分がこの世ですべき事など、
もう無いのではないか、と。
ともすれば、
自分がすべきことは唯一つ
この命を絶ち、貴方を追うことただ、それだけ
ですから、
貴方に、
会いに行きます