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湯殿から出ると、いつもなら手拭いを持ってそこにいるはずの左京が居なかった。それを少し不自然に思いつつも、着替えの着物と共に置いてあるそれで髪や体を拭う。なんだか外が騒がしい。主人が五月蝿いのを好まないということなどは、ここにいる家臣や使用人が知らないはずがないのに、だ。


あまりに騒がしくて気分が悪くなってきたので部屋に戻ろうと、早々に廊下に出た。すると、ある一角に使用人たちが人垣を作っている。自身の眉間に皺が寄るのを感じながら、光秀はそちらに足を向けた。


「…騒がしいのは嫌いですよ」
「み、み、光秀様…!」
「…何ですか」
「お部屋にお戻りになられて下さい、光秀様」


誰かががそう言った。

「何故ですか、私はここの主人ですよ。お前に指図される覚えはありません」
「は、申し訳ございません…ただ、今ばかりはどうか…」


何とも歯切れの悪いこと。


「…何があったのですか」
「い、いえ…大したことは」
「言いなさいと、言っているのですよ」
「っ、左京様がお、お怪我を…!」


主人から滲み出る殺気に恐怖したのであろう下女が、半ば叫ぶようにそう言った。



それよりも、
左京が、怪我を?



「そこに、いるのですね」


通しなさい。


そう言っても退こうとしない家臣たちを押し退けて人垣の中に足を踏み入れた。

と、そこに見えたのは


あか、アカ、赤。

一面に飛び散っている。
そしてその血溜まりの中心に横たわっているのは、


「っ、左京」


紛れもなく、愛しい彼だった。



「左京、目を、開けなさい」
「み、つひでさま、」
「何をしているのです、このようなところで寝る下品な男を好いた覚えはありませんよ」
「もうしわけ、ありませ、ん」
「早く、立ちなさい。そ…」
「みつひでさま、」
「…何ですか、ほら目を、おあけなさい」
「     、」
「、何と言ったのです?聞こえませんよ」


起きなさい、と左京の肩を揺する



「光秀様、お止めに…」
「っ、起きなさい!言うことが聞けないのですか、」




―貴方は独りにする気なのですか。この私を、独りに―



神様はなんて残酷なのだろうか、

  


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