05
…結局こうなるのですね。
私は今、武道場の板の間に立っています。頭には面を、体には胴を、手には小手をそれぞれ身につけて。つまるところ、これから私は試合をしなければならない、という訳です。何故このような事態になったのか、それは…
「左近!頑張れー!」
「……前田慶次君?」
こんな状況下で能天気にも大声で私の名を叫ぶ慶次を少し睨み付けてやりました。
…なに、ほんの少しです。
「ひぃっ…!」
「はぁ…」
全く、ため息をつきたくもなるってものです。
「ご、ごめんっ…こういうの、嫌だったかい?」
「いえ、そういう訳では…ないのですが、」
するとあからさまに安堵の表情を浮かべる慶次。そう、この男こそが全ての元凶なのです。
「それもこれも全てあなたのせいです。後で償ってもらいますからね、」
…なんて、脅してみたりして。
嫌ですね…本気な訳、ない、でしょう?
「体か、体で償えって言うのかい?!左近…!」
さて、訳の分からない事を叫んでいる慶次は無視しておいて、これに至るまでの経緯を説明いたしますと、あれから慶次と私は武道場に向かいました。そこでは丁度、トーナメント表を作っているところでしたが、転入生である私の名前はありませんでした。恐らく先生が配慮して下さったのでしょう、有り難い。これで目立つことはないだろうと安心した矢先、あろうことか慶次が
「先生、俺なんだか腹が痛いや。代打で左近出していい?」
などと言い出したのです。そしてそれを武田先生が(恐らく慶次が嘘をついていたことなど分かっていたのでしょうが)二つ返事で了承してしまったがために私は転入早々にして試合をする羽目になった、という訳です。
…いつの間にか集まっていた大量のギャラリーの前で。
「始め!」
主審の声が響く。お相手は名も知らぬ方。もっとも私の場合、お名前を知存じ上げないのは仕方のないことなのですが。
「ヤァァ!」
ああ、こんな状況で考え事をしているなんて失礼でしたね。早く終わらせて慶次にプリンでも奢らせましょう、
「面、」
ガラ空きですよ、浅井さん。