甘ったれ



おれは『わかっている』んだ。おれがほんとうは宇宙がすきですきでたまらないことも、宇宙飛行士になりたくてたまらないことも、子どもの頃にみた夢をあきらめたくないことも、でも、重圧とそのあまりの道のりの遠さにあきらめてしまったことも、じぶんにどうしようもなかった、あれが最善だった、おれの選択はまちがってない、なんていいわけばかりしてきたことも、宇宙と夢から逃げたことを認めたくないことも、心の底から弟が妬ましくてしかたがないことも、今のおれがずっと理想としていた兄じゃないことも、じぶんが小さい小さい人間であることも、ぜんぶぜんぶ『わかっている』んだ。

それはもういやというほど『わかっている』。何十年も共に生きてきたじぶんのことを、『わかって』いないわけがない。じぶんの弱さも弱点も短所もぜんぶ、ぜんぶがぜんぶ、いやというほど、死にたくなるほど、『わかっている』んだ。

だから、だから、だ。おれはそれらを「あなたはわかっていないかもしれませんが、」と突いてくる奴らがいやでいやでたまらない。

『わかっている』、いやというほど、じぶんのことだ、『わかっている』。
それでもわかっていないと言うなら、なぁ、朗唱してやろうか、おれの弱さと弱点と短所をぜんぶおまえの耳におまえの耳の奥の奥の脳に直接、叫んでやろうか!

「わたしはあなたの理解者なんですよ」

なに寝言を言ってるんだ、おまえは、ばかやろう。
おれが『わかっている』んだから、わざわざ恩きせがましく言わなくていい、核心を本音を本心を突いてこなくていい。

ただ、「そうか」と一言、あとは見守ってくれるだけでいい。なんなら放置してくれるほうがいい。干渉されるよりも、無視が放置が放任が、どれだけありがたいか!そうだ、察して遠まきに見ていてくれればいいんだ。
そして、どうしようもなくておれがそれにがんじがらめになったらそっと手をさしのべてくれよ。

ほんとうにおれの理解者ならさ。

なぁ、甘えたことを言ってるってわかってるよ。でもね、それでも、おまえに『わかっている』ことをわざわざ言われるたびにね、悔しくって情けなくって、じぶんが塵に思えて、つらくて死にたくなるんだよ、おれなんか、ってさ、悔しくって情けなくって、涙が止まらないんだよ。

ほんとうにおれの理解者ならさ、
ほんとうにおれの理解者ならさ、

恩きせがましく『わかっている』ことを言わないで、ただやさしく見守っていてくれないか。

もうねぇ、もうねぇ、もうねぇ、つらい。つらくなっちゃうから。

ね?それでも、おまえはおれに言うだろう。
逃げたねあきらめたねあの日の言葉は嘘だったのおれたちの夢はどうするのほんとうは宇宙がすきなんだろ宇宙飛行士になりたくないの、

……そうだよ、ぜんぶ、『わかっている』。おまえは正しい。でも、正義と正論ばかりじゃつらいよ。

ほんとうにおれの理解者ならさ、

放っておいて、干渉しないで、でも、見捨てないで。

でも、見捨てないで。

おまえは白しか欲しくない。おれは黒のままでいい。
ほら、わかるだろ?おれたちはさ、

「根本的に合わないんだよ」

そうだろう?そう思うだろう、日々人、おまえもそう思うはずだ。そう思わないなんておかしい。
おれたちは合わない。合わない。合わないんだよ。まるで水と油みたいに磁石みたいに反発して、交じりあって、一つになんかなれない。

だから、言うな。すき、だなんて言うな。もうぜったい口にするんじゃない。ムッちゃんがす、

「そんなに言葉の洪水を浴びせなくてもたった一言、日々人がきらいだ、って言えばいいのに。じぶんに甘いことばっかり。ほんとうにムッちゃんはじぶんのことがだいすきなんだね」

だめだ。そう吐き捨てることができない。
想いをひとりよがりに踏みにじった兄が憎い。兄が憎いけれど、産まれて三十年間の兄への情が邪魔をする。
ああ、すきだ。すきだ。こんなにどうしようもない人なのに。こんなにどうしようもない人なのに。

「きだなんてもうぜったいにぜったいにぜったいに言うんじゃない!」

こんなにひどい人なのに、すきだ、すきだ、すきだ、

すきだ。どうしようもなく。兄の言葉どおりになにも言わずにやさしく首を動かして、見守る覚悟をするくらいには。

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