南波日々人は狂ったような男だな。
あのとき、幼なじみの男がこぼした言葉はおれの耳を撫でて終わった。きちんと脳に刻んでいたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
「赤い薔薇を入れましょう。ムッちゃんがいつまでも美しくいられますように」
今、おれは南波日々人の兄を固めている。
「人の大切なものを汚したんだ。責任とっていただけますよね」
一回だけだ。一回だけ、すきだよ、って囁いただけ。真っ赤になって照れる表情がかわいかったから。それだけ、からかっただけ。
それだけで、共犯にされるなんて、そんなの予想できるもんか!
いつものようにからかって、じゃあね、と角を曲がったらナイフをもった南波日々人がいた。
「いいよね、あなたはかるがると、」
そう言っていきなり腹を刺された。浅く、1cm、脅すだけの甘噛みだ。でも、あっ、脅すだけなのにほんとに刺しちゃうんだ?やばいな、こいつ。そう思った。
そして、ああ、ほんとに兄貴がすきなんだね、と。
南波日々人が兄に恋愛感情を抱いていたことは知っていた。知っていて南波日々人の兄をからかって遊んでいた。南波日々人に対する嫉妬もあったかもしれない。激昂して掴みかかってきたらおもしろいな、と思っていた。でも、まさかナイフで刺されるとは思わなかった。
南波日々人は狂ったような男だな。
幼なじみの男がこぼした言葉が痛みと共に蘇る。どうして避けなかったんだろう。後悔してももう遅いけれど。
「ムッちゃんを固めたいから、すぐ来てください」
刺されてからのおれは転がり落ちるように南波日々人の恋の共犯者になった。命令されたわけではない。肉食獣と兎のような関係だ、本能で逃げられないのだ。
「死んでんの?」
「いいえ。仮死状態にしているだけです」
「固める…?」
「ゼリーにしましょう。檸檬味の、透明のゼリーに」
南波日々人の家で兄が全裸で横たわっていた。とうとう殺したのか、と思ったら、それよりもっと狂ってた。
全裸の兄をゼリーにしよう。
あ、ああ、ああ、あーあ、なんてこった。やだなぁ、やだよ。でも、逆らえないか。
「まだ?」
「まだです。あと、薔薇の花びらがありますから」
それから、えんえんえん、ゼラチンを溶かして溶かして溶かして溶かして、檸檬を搾って搾って混ぜて、硝子の棺を満たして、薔薇を散らして、固めていく。
「ムッちゃん、綺麗……、」
一晩中、作業をして、朝日に照らされた硝子の棺はたしかにたしかに美しかったけれど、それの倍、おそろしかった。
地獄はきっとこんな景色で、悪魔はきっと南波日々人のような顔をしているのだろう。
(どうして恍惚の表情ができる?こんな景色で、状況でどうして…)
考えてもわかるわけないか。そう結論して、帰る、と南波日々人に声をかける。
「ああ、どうも。お疲れさまです」
「おまえ、これ、どうすんの?」
「食べますよ」
「飽きない?」
「ムッちゃんに飽きるなんて、まさか」
「……殺したくないの?」
ずっと訊きたかった。ええ。と言ってほしい。すきだから、殺す。自慰をする。それなら、まだ、人だ。理解はできないけれど、人だと思う。
「どうして?」
でも、南波日々人は心の底からわけがわからない!という顔をした。どうして殺す必要があるの?どうして汚したくないのに自慰をするの?
それなら、とおれは思う。どうして固めたいの?どうして兄のゼリーを食べたいの?
「なんです?そんなにじっと見て」
「なんでも」
「そうですか。最後に、見てください。目に焼きつけて。美しいでしょう。おれのものです」
「ああ、」
南波日々人の恍惚の表情を見て改めて思う。悪魔はきっと南波日々人のような顔をしているのだろう。
−−−−−−−−−−−
「ブライアンってかっこいいですよねぇ」
昼のカフェテリアで後輩が熱っぽい声で呟いた。視線の先には我が弟、ブライアン・J。
ブライアンの性格は豪放磊落とした自信家、情にあつく、後輩はもちろん、上司役員受付嬢、果ては掃除のおばちゃんまで彼に夢中だ。
「そうかぁ…?」
しかし、兄のおれから見る弟は無鉄砲すぎてはらはらするし、無遠慮な発言に肝が冷えることも多い。がさつだし、女にだらしないし、自由奔放と言えば聞こえはいいが、自己中心的なだけじゃないか、と思う。だから、周囲の弟に対する評価には常々疑問だった。
(あんたら、こんな男でいいの?)
そんなある日のことだった。ブライアンが後輩の吾妻と談笑しているところを見かけたのは。
はじめは珍しいな、と思った。吾妻は寡黙で有名だったからだ。騒々しい弟とは水と油のようだな、と。
そんな男を柔らかく微笑ませている弟の手腕に感心した。おれは弟を過小評価していたのかもしれない。おれではあの微笑みを引き出すことは叶わないだろう。ブライアン・Jの人柄があってこそなのだ。
…という話をそれから数日後の弟に言ってみた。おまえ、どんな魔法を使ったんだよ、と。
「魔法なんて使っちゃいないさ。おれはだれにだって平等だよ」
と大きな口で笑った弟の真意をまさか、
「すまない、吾妻。おれはエディを愛しているんだ」
告白の現場で知るなんて。
報告書を提出するために室長室へ向かっていた。ら、その途中のひと気のない廊下で、まさか、まさか!
おいおい、夢だろう?そうだと言ってくれ、驚くことが多すぎる!
「いつから…?」
「産まれたときから、」
瞳にエディが映った瞬間からだ。
…夢じゃない。どうやら、夢ではないらしい。弟は、ブライアン・Jという男は真剣な告白を嘘でごまかすような奴じゃ、ない。
そうか、そうか、そうか…。弟は兄のおれがすきなのか…。
真実はおれの心にストンと落ちて、あっさりと染みこんだ。 兄として弟を近くで見ていたからだろう。今の今まで想いに気づくことはできなかったけれど…。
「エディ!」
「ブライアン」
それから、弟の想いを知ってから。周囲が騒いでいた彼の『魅力』というものがわかったような気がする。それは、兄の目線ではわからなかっただろう。男の目線で見て、はじめてわかることだ。
そんな魅力溢れるブライアン・Jが…、おれをとくべつ扱いをする。おれが騒がしさをきらうから、なるべくトーンを抑えて話す。想いを伝えることを恐れてか、激しいボディタッチもしない。まなざしがやさしい。愛しい人を見る目だ。
その背徳を孕む心地よさ!知らなかった。純な後輩を踏みにじって、知った想いを知らんふりする…、この快感。
悪魔のようだ。でも、想いを受けとめてはやれないから、いつまでもおまえが望むまで、たとえいつか望まなくなったとしても、おれは兄の顔を崩しはしない。
いつまでもいつまでも、おれたちは兄弟のままだ…。
−−−−−−−−−−−
「アツシくん、もしねぇ、おれが蠅になっちゃったらどうする?」
記憶の中の一番古い紫は砂場で俯いている四歳児だった。
「にんげんは蠅にならないよ」
そのときのおれはまんまるでつるぴかの泥だんごを作ることが世界のすべてだったので、紫の言葉は曖昧に流して真剣に泥を水で練っていた。
「そおかな」
「そおだよ」
「ほんとに?」
「ウン」
あのとき、ミヤッチがそう言ってくれて、おれ、うれしかったんだよ。
二十九歳になった紫が言う。だから、おれをすきになったのだ、とも。
もう憶えてもいないけど、とても悲しいことを人に言われて、消えてなくなりたかったから、と。
「だからさ、ほんとにうれしかったんだよ」
せめて憶えていてやりたかった。おまえの心を二十五年、縛りつづけるおれの言葉を、せめて憶えていてやりたかった。
どうせ想いを踏みにじるなら。
「…結婚おめでとう。おれのぶんまで、幸せになってね」
そう言ったおまえの背中になにも言えやしない。
悪かった。
なにが?言葉で縛りつづけていたこと?想いに気づかないふりをしていたこと?
紫はおれを恨んでなんかいない。そんなこと、わかってる。いやというほど、わかってるんだ。
おれはあいつの隣にずっといたんだから。
それでも、それだから、言いたい。
悪かった、受けいれてやれなくて、と。
−−−−−−−−−−−
「天邪鬼でいたい。あなたの前ではいつまでも、聞きわけのない後輩でいたい。しかたない奴だなぁ、って笑われていたいんです。ねぇ、」
わかりますか、わたしの気もち。
と、今にも泣き出しそうな後輩の言葉にわたしは情が湧きそうになって焦る。今日に至るまでわたしを蹂躙しつづけた悪魔に情なんて!湧いてたまるものか、と腹に力を込める。
ここで甘やかに包んでも、こいつのためになりはしないだろうから…。
「抱きしめてくださらないんですか?」
「それでおまえの気がすむわけがないのに?」
「そんな、むりやり抱いたりなんて…、」
「前科がある奴にそう言われてもな」
「そう…、前科、前科ね」
人をまるで犯罪者みたいに言うんですね、あなたは…、ええ、あなたの、そんなところがたまらなくすきだ。
「最後まで天邪鬼でいたかったんですけどね…」
はっ!と宮田は嘲笑してから、もう終わりだすべてだいなしだ、と小さく呟いた。
「…終わり?」
「そうですよ、もう終わりです。わかりませんか?あなた、わたしに愛があると知ったら、身体をあずけてくれるでしょう?そうなったら、もう終わりですよ。わたしはあなたを地獄に引きずりこみたいわけじゃないんですから」
だから、最後まで天邪鬼でいたかった、あなたを困らせて、嫌悪されていたかった…。
「でもね、どうしても言いたかったんです。わたし、あなたのことがすきです」
たまらなく。
傷つけても、そばにいたかった。でも、もう終わりだ。
あなたまで、地獄に落とすわけにはいきませんからね。
「すきでした。さようなら。わたしのことを、どうか忘れてくださいね」
情なんて湧いてたまるか、と思った。甘やかに包んでやるものか、とも。
でも、弱々しい笑顔に心を奪われそうになっている。せっかく悪魔が去っていくのに、その手をわざわざ掴んでどうする。地獄に引きずりこまれるぞ。それでもいいのか。落ちるところまで落ちてもいいと思うほど、わたしはこの男に惹かれているのか。
「…吾妻さん、安心して、あなたのそれは気の迷いですよ」
わたしの胸の渦に気がついたのか、宮田はやさしい嘘をつく。
天邪鬼でいたい、と悲痛に叫んだ声を思う。どうしても言いたかった、と喉から絞り出した声を思う。
(最後の最後まで天邪鬼でいなくてもいいのに)
でも、それがおまえの望みなら、叶えてやりたい。
「そうか、じゃあ、」
「ええ、」
さようなら。
−−−−−−−−−−−
まっすぐな黒髪もきりりと光る瞳も薄い胸も肉のない尻も、彼女の小さな身体のひとつひとつが、とても愛おしかった。
それを見て、わたしは、衝動のように、料理したい、と思った。彼女の身体を白いシーツに横たわらせて、指先という名の包丁で綺麗に解体してみたいなぁ。
きっと彼女は頬が落ちるくらいおいしいはずだ。そして、わたしなら、彼女をもっとおいしくできるはずだ。わたしだったら、わたしなら、彼女をもっとおいしく料理できるはず。
(……わたしなら、)
そのとき、はじめてわたしの中で『食べたい』ではなく『料理したい』という思いが勝った。
これを世間では性欲と呼ぶのかもしれない。でも、たぶん、世間の言う性欲からは大きく外れていると思う。
わたしも、彼女も、同じ性別、女性だから。
「せりかちゃん?」
大丈夫?と姉のようにやさしく訊く、彼女の喉が白くて背筋が震えた。ああ、料理したい。
でも、悟られてはいけないから、わたしは微笑んで、ごめん、ぼーっとしてただけ。大丈夫だよ、
「えなちゃん」
…さあ、席を立って、彼女の半歩後ろを歩こう。いつものように、友だちの顔をして。
−−−−−−−−−−−
「もうあと一回しかないんだからな」
と夏の終わりの教室であなたが言ったから、おれは、おれは、おれの喉は、
「そんなこと言わないで。おれとずっといっしょにいてよ、先生、」
かすれた必死な声に目を逸らしたくなった。
あーあ、こんなこと、困らせるようなこと、言うつもりはなかったのになぁ。
先生、一目惚れだったんだよ。
「きみたちを担当することになった、数学の南波です」
名字が同じだな、とかそんなことじゃなくて、もし先生が南波じゃなくても、おれはぜったいに先生をすきになってた。
先生の濡れてるみたいに黒い、やさしい瞳に心が吸いこまれちゃって、一瞬で心が盗られちゃって、まだ先生がおれの心を掴んでもってる。
掴んで離してくれないんだよ。
「おまえ、またかよ…」
「うん、よろしく、先生」
高一のはじめての中間テストで補習になった奴が言ってた「ムッちゃん先生、すげーわかりやすいの、横にぴったりついて教えてくれてさ」に、おれはまんまと釣られてしまった。
卒業まで定期テストは十回ある。その十回だけでも先生を独り占めできたら…?
「おまえなぁ、いい加減にしろよ、一問だけ解いてあと白紙って、何回くり返せば気がすむんだ!」
おれってばかだ。理系で大事で大事な数学の定期テストで狙って赤点とるんだから、恋をするとばかになるってほんとだ、ばかだ。
でも、ばかでもいい。先生を独り占めできるんならなんでもいい。だって、先生は人気者でどこでもいつでもだれかといっしょでこうでもしなきゃ二人っきりになんてなれないから。
「何回連続だと思う?」
「う〜ん、数えてないからわかんないや」
「高一の前期末から合わせて九回だよ!」
今年は受験生だろ!と怒鳴る先生の喉に噛みつきたい。喉仏を舌で転がしたい。
怒られてるのに不謹慎かな?ごめんね。でも、先生の鎖骨を舐めたい。
あのね、先生、困らせたくないから言わないけど、
「どうすんだよ、もうあと一回しかないんだからな」
と夏の終わりの教室であなたが言ったから、困らせたくなかったのになぁ。
「そんなこと言わないで。おれとずっといっしょにいてよ、先生、」
まだじんわりと汗ばむ九月の教室に懇願が響く。情けない声音に逃げたくなった。
二年と半年、何回も想像した、もしも、を思い出す。告白したら、きっと、先生は困った顔で苦笑いするだろうから、ぜったいに言わない、って決めてたのに。
先生の顔なんて見れない。ほんとに困った顔で苦笑いしてたらどうしよう。俯いて、目を逸らすことしかできない。
「……おまえ、それって、どういう意味?」
「どういう、って…、」
「どういうって?」
「すき、って、ことだよ」
俯いたまま答える。
どうして?どうして、こんなわざわざ確かめるようなこと、ひどい。どうしてこんな、受け入れてくれるつもりなんてないくせに。
「南波、顔、あげて」
「……やだ」
「南波」
「やだって…」
「あげなさい」
こんなときだけ、先生みたいな声を出すのはやめてほしい。生徒なおれは、従うしかないじゃないか。
(やだなぁ、やだ、どうせ苦笑いして、諭すだけのくせに)
「おまえ、だから、こんなことしてたの?」
でも、顔をあげると、先生は、おれのテストをひらひらさせながら、先生は、苦笑いしていたけど、それは、想像していたそれじゃなくて、しかたない奴だなぁ、っていう、苦笑いで、先生、先生は、困ってないの?
(先生、先生、おれの想いは迷惑じゃないの?)
「おまえ、頭のいいのにしょうもないことすんね」
そう言って、先生はおれの頬を手の甲で撫でてくれました。
「おれもすきだよ」と言いながら。
−−−−−−−−−−−
それから少し経った冬、先生に、なんでおれのことをすきなったの?と訊いたことがある。
先生は恥ずかしそうに真っ赤になって黙ったあと、こっそり教えてくれました。
「教師ってのはなぁ、出来の悪い奴ほど、かわいくなっちゃうもんなんだよ」
おまえ、白紙とか、気になることしやがって。
おれはもう、うれしくって、うれしくって、恥ずかしくって、百点とったご褒美の、先生のベッドの中でおもいっきり、先生の細い身体を抱きしめる。
むだじゃなかったんだね、先生にすきになってもらえてよかった。
−−−−−−−−−−−
もしもピアノが弾けたなら、と思う。
もしも、音色だったなら、おまえの堅く閉ざされた心の扉の隙間から、入っていけたのかなぁ、なんて、なんて。
「…なんだよ」
「んーん?なんでもないよ」
おまえの心の自傷癖を、治せてやったのかなぁ、なんて、
(なんて、)
思うよ。
(ああ、また叶わない恋をしてら)
見守るだけはもううんざりなんだ。じぶんの無力さに押し潰されそうになるから。きみを、おれのほうを向かせて、包んでやりたいよ。おれだって、男だもの。でも、きみは、弱みを見せたがらないから、なんでもないようにふるまいたがるから、プライドが高いから、包んでやれないね、きみも男だから。
きみはじぶんを傷つけて傷つけて、傷つけてしか、恋ができないの?恋は傷つけるものでも、傷つけられるものでもない。お互いを癒すものだと、おれが教えてやりたい。きみの心の扉をこじ開けて、裸のきみを抱きしめたい。抱きしめながら、泣き言をきみの聞いてやりたい。
でも、きみはさせてくれない。
こんなに近くにおれがいるのに、こんなに近くにおれがいるのに、頼ってくれない、見せてくれない、扉は堅く堅く閉ざされたまま、おれは隙間に爪をたてることしかできない。
見守るだけだった。でも、もううんざりなんだ。見守るだけは。助けたいし、癒したいよ。
だからさ、もしもピアノが弾けたなら、その音色が扉の隙間から入りこんで、きみを癒してくれるかもしれない。おれがきみを抱きしめられなくても、きみは音色の海に包まれるかもしれない。それでいいと思った。そうなれば、と願った。だからね、ほんとうに、もしもピアノが弾けたなら、と、おれは、きみを、きみはね、知らないだろうけど…、
幼なじみのきみは知っているだろうか、おれが音楽の授業に必死だったことを。きみは苦笑いして、なんで、と訊いた。憶えているかな。きみのためだよ。きみを癒してやりたかった。でも、どうしても、おれのおたまじゃくしはかえるになってくれなくて…、悔しくて悲しくて、きみを癒してやりたくて…、
なんでかわかる?きみがすきだからだよ。
頭のいいきみでもずっとわからなかったこと、ずっと、ずっと、これからも、そうかな。そうだろうな。ずっとずっと、きみは叶わない恋をして、じぶんを傷つけて、おれはそれを見守るだけ、今までもこれからもずっと…。
ああ、もしも、もしもピアノが弾けたなら、なにか変わっただろうか。なにも変わらなかっただろうか。なにも変わらなかったとしても、今みたいに、後悔に、身がよじれることはなかっただろう。