強姦魔へスピーチ



「みなさんわたしは幼少の頃から日々人に毎日毎日毎日毎日毎日毎日犯されつづけてきました毎日毎日毎日毎日です日々人はまるで獣のようにわたしの身体を蹂躙しましたわたしの精神を破壊しましたどうですか新婦さん日々人との性行為はどうですかおれのようにひどいことはされていませんか鋏を肛門を入れられたりなどされていませんかされていませんよねよかったほんとうにあれは痛いですからあと日々人はあなたにやさしい言葉をかけてくれますかかけてくれているんでしょうあなたの幸せそうな笑顔からそれがわかりますわたしには罵倒しか浴びせてくれませんでしたなにをしても殴られましたあなたは日々人に殴られたことはありませんかそうでしょうねそうでしょうねそうでしょうねそうでしょうねそうでしょうね二人ともいえ三人で幸せになってください」

よく晴れた6月のある日のことだった。
ジェーンブライドは、花嫁の夢の結婚式は、おれの弟の結婚式は、あの瞬間まで、たしかに幸せに包まれていた。二人の新しい人生のはじまりの、若々しい爽やかな匂いに満たされていた。
おれの強姦魔へのスピーチがはじまる瞬間までは。

「いまさら…ッ!」

ああっ、ほら、だめじゃないか、日々人、そんなこと言っちゃあ。

(ばかだなぁ)

ちら、と親族席に目をやると、父ちゃんが震えている。母ちゃんが泣いている。新婦さんの両親はあっけにとられてる。そりゃあそうだ。あたりまえだよなぁ。
新婦さんは…、あーあー、倒れちゃった。妊娠してるんだろう。だから、急いで結婚したんだろう。ほらほら、一人だけの身体じゃないんだからむりをさせたらだめじゃないか。

「いまさら……?」

ばかだなぁ、日々人、おれの言ったことなんて、無視していればよかったのに。そうすれば、頭のいかれた男の戯言だけですんだのに。
ばかだなぁ、おまえはほんとうにほんとうに、ほんとうにばかだ。

(おれがおまえを守らなくちゃね)

い、いまさらってどういうこと?ねぇ、日々人くん、いまさら、いまさらって、いまさらってどういうことなの?ねぇ、ねぇ、ねぇ、

「いまさらって…、いまさらって…、いまさらって、どういうことなのよッ!」

そこから先は地獄絵図だった。新婦がハイヒールを脱いで泣きながら日々人を殴りつけて、新婦の母はひたすら胃液を吐き出し、新婦の父は顔を真っ赤にしながら大声で罵倒をくりかえして、周りはそれを撮影していた。
でも、それを見てもなにも思わなかった。どうでもよかった。俯いている父ちゃんと母ちゃんには、恥をかかせてごめんね、とあやまろう、と頭のすみで考えてはいたけれど。
どうでもよかった。だって、そうだろう、日々人。おまえがいるなら。いるなら、もうそれだけで。

(おれがおまえを守らなくちゃね)

そのまま式は霧散して、今、新郎の控え室にはおれたち二人だけだ。
ふふっ、おまえはまさかおれがここにいるとは思わなかったんだろう。だって、おまえはこれからおれを殺しに行こうとしたんだものね。その手にもった鋏で…。

「ムッちゃんのせいでおれの人生めちゃくちゃだよ」

日々人は人殺しの目をしていきなりおれに掴みかかって、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、鋏は使わないの?

「いまさら……?」

おまえの激情に飲みこまれる瞬間がすきだ。溺れて息ができなくなる瞬間がすきだ。だから、おまえにもっともっと、もっと殴られたいし、罵倒されたいし、ひどいことをされたいよ、縛りつけてほしいよ、

おまえを離したくないよ。

「おれなんておまえのせいでとうに人生ぐちゃぐちゃだよ」

なぁ、日々人、快感になっちゃったんだよ。どうしてくれるんだ、癖になっちゃったよ…。

「なぁ、」

知ってる?今のおまえ、おれを犯すときと同じ目、してるよ。
もしかして、おまえも気もちいいんじゃないの?おれを殴って、興奮して、犯したくなっちゃった?
いいよ、しようよ、ぐちゃぐちゃにしてよ。昔みたいに、あの鋏をおれに刺して。

お願い。と血だらけの口で日々人の耳元で囁けば、おまえはいつも、狂ったようにおれを抱く。
知ってるよ。おまえの身体の精神の欲望の弱いところ、ぜんぶぜんぶぜんぶ…。

「あ、あ、あ…、」

おまえは弱いね。
血が点々とついた白いタキシードに指を這わせながら昔の二人を思うよ。
いつからだったっけ。おまえがおれを犯さなくなったのは。おれがおまえを誘うようになったのは。おまえがおれの身体に溺れるようになったのは。
いつからだっけ、いつからだっけ、いつからだっけね…。

「……どう?」

気もちよかった?子どもをつくるときより、気もちよかった?

絶望している顔がかわいい。
知ってるよ。おまえ、おれの身体から離れたかったんだろう。おれの身体に溺れていくのがこわかったんだろう。ばかだね。それで子どもまでつくって、強引におれから離れようとして…、ばかだね、かわいいね…。

おれをこんなふうにしたのはおまえなのにねぇ。

でも、もうこれで、おまえは一人ぼっちだ。おまえの周りにいた人たちは、みんなみんな、おまえの前から姿を消していくよ。なんてったって、今日、みんなみんな、あの地獄を見てしまったんだからね。おれが見せたんだからね。
もうおまえはだめだ。おまえは近親相姦の強姦魔、と後ろ指をさされながら、日陰で生きていくんだ。日陰で生きていくしかないんだ。もう日のあたるところには戻れないよ。暗いじめじめしたところでずっとずっとずっと、たった一人でずっと一人で…。

悲しい?つらい?一人はいや?
でも、大丈夫。おれがいるよ。おれはおまえの味方だよ。唯一の味方だよ。世界に一人しかいないおまえの理解者だ。だから、おまえはおれの手を離してはいけないよ。おまえみたいな犯罪者の目を見て手を握って話してくれる人間はおれしかいないよ。もうおれしかいないよ。おれしかおまえの右隣に存在することはできないんだよ。
だから、おまえはおれの手を離してはいけないんだよ。

わかったら返事をして。首を少し傾けるだけでいい。

「あ、あ、あ…、」

ああ、そう。よくできたね。おまえは、日々人は弱いね。
おまえは弱い。おれに頼らないとおれに縋らないとおれに溺れないと、生きていけないんだものね。弱いね。弱い。日々人は弱いねぇ…。

だから、

「おれがおまえを守らなくちゃね」

これからは、ずぅっとずぅっと、永遠に、おれたちは二人っきりで生きていこう。




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おまえの 人生 ぶっ壊してやる

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