「おれ、ムッちゃんのお尻がすき。薄いけど筋肉があってキュッとしまってて、かわいい」
弟はそう言いながらおれの尻を撫でる。指先で、ツゥと誘うような手つきで。
しかし、先ほどの行為の余韻と腰の痛みに浸っていたおれは、「もうしないぞ」と弟を諌めた。
弟は唇をとがらせて、「ケチ」と小さく不満を呟くと、シャワーを浴びにベッドから消えた。
おれは、はぁ、とため息をつく。できれば、セックスのあとはほうっておいてほしい。
じぶんへの嫌悪感で死にたくなる。
おれは弟を愛している。あいつのすべてを受け入れたいと強く願っている。
そのためにはじぶんの身体がどうなったってかまわないと思う。
弟もおれがすきだと言う。でも、弟はおれのような歪んだ愛情ではない。
セックスのあとに死にたくなるような、そんな愛情ではない。
おれは弟のすべてを受け入れたい。
だから、おれはセックスがすきだ。
興奮を抑えておれの身体を這う手のひらがすきだ。
焦るようにおれを呼ぶかすれた声がすきだ。
飢えた獣のようなギラギラした瞳がすきだ。
おれの中に欲を吐き出す瞬間がすきだ。
弟を受け入れていると感じさせてくれるセックスがすきだ。
錯覚させてくれるセックスがすきだ。
でも、セックスが終わるといつもじぶんへの嫌悪感で死にたくなる。
ああ、また受け入れきれなかった。また欲を余らせてしまった。
どうしておれは体力がないんだろう。
どうしておれは受け入れきれないんだろう。
弟を受け入れていると感じたのはただの錯覚だったのか、死んでしまいたい。
そう思う。いつも思う。
おれは弟を愛している。あいつのすべてを受け入れたいと強く願っている。
そのためにはじぶんの身体がどうなったってかまわないと思う。
それなのに、弟はおれの身体を壊してはくれない。
おれを欲望の海で溺れさせてくれない。
いつも海から救い出して、身体をいたわる弟が恨めしい。
どうせなら、犯してくれればいいのに、と思っているけど、してくれない。
弟のそのやさしさが憎い。
弟は海だ。深くて暗い水の塊だ。
受け入れたいと思うほうがまちがっているのかもしれない。
でも、受け入れたい。弟の海を残さず飲み干したい。
それができないのなら、せめて、重りをつけて海に沈めてほしい。
「ムッちゃぁん、石鹸とってぇ」
思考の渦に沈殿していたら、弟の甘い声が響く。
「なぁーにぃー」
「石鹸とってぇ」
はいはい、と言葉を返しながら、立ち上がる。意識をクリアにしていく。死にたくなるような感情をふりはらっていく。
クリアにクリアにクリアに、甘い声に応えられるくらいにはクリアに。
「ムッちゃん、もう一回しようよ」
濡れた身体の弟に抱きしめられながら誘われたけれど、「いやだよ」と笑いながら断った。
一晩に二回も死にたくない、から。