今まで新田はモテてきたのだろう。あの整った顔と細身だが筋肉のついた身体に加え、頭脳明晰でスポーツ万能、さらに冷静で大人びた雰囲気…、これでモテなかったはずがない。そうだ。新田零次はモテたのだ。否、モテつづけているのだ。そういえば、所長の娘がファンだと言っていた。日本ではアイドルのような扱いをされているのだろう。なんてたってあのルックスだ。あたりまえだ。そうだ、そうだ。新田はモテる。新田零次はモテるのだ。
女なんて周りに掃いて捨てるほどいたにちがいない。言いよる女の相手をするのも慣れてしまって流れ作業のような性行為…。そうだ、だから、並の女では満足できなくなってしまったのだ。
そうだそうだそうだ、だから、女では満足できないから。おれにすきだなんて言ったんだ。

(そうだ、そうにちがいない!)

ふ、ふふん、新田零次クン、あいにくおれはそんな理由で男と寝るほど困ってないんでね。よそをあたってくれたまえよ。世界は広い。ましてやきみのその美貌だ。ほだされる男なんて星の数ほどいるだろう。

まぁ、わたしはちがうがね!

(……ば、ばかだこいつ、)

おいおいおいおい、まさか、まさかと思っていたけど、こいつ、ここまでばかだったのか?

おれは南波に「すきだ」と言った?
ああ、言った。
「恋愛感情だ」とも言った?
ああ、言った。

言った言った言ったさ!

おれの言葉を聞いた南波は耳と頬を赤くしていた。だから、おれは、よかった、伝わった!と思っていた。思っていたけど、翌日の南波はニヤニヤして、憐れむようにおれを見てきた。
そして、訝しげなおれに南波は、「ふ、ふふん、新田零次クン、あいにくおれは、」だと!

えっ、ばかじゃねぇの?どういう思考回路してたらそんなばかみたいな考えに陥るんだ!

南波は、「どうだね、新田くん、図星だろう?」とニヤニヤしている。
おれは、「図星なわけねぇだろ…、」と深いため息を吐いた。

「あのなぁ、おれは本気だぞ。本気で、南波、おまえがすきなんだ。おまえだからいいんだ。だから、女の代わりなんかじゃ…、」

そこまで言って、南波のほうをチラリと見ると、真っ赤な耳で俯いていた。
きっと顔も真っ赤だろうな、と思いながら、南波の耳に触ると、

「………やめろよ、」

熱かった。

(よかった、熱くて、照れてくれて)

これならもうばかな考えに陥らないだろう。これだけはっきり言ったんだ、大丈夫だろう。大丈夫だ。

「でも、新田、おれ、新田が満足するような美人じゃない…」

あー、もう、おまえの思考回路のイカれた脳を解剖してやろうか、ばかやろう!

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